おじローション職人
ローション職人の朝は早い。彼の名前は"おじ"。メルカリでローションを売るなどして生計を立てている者だ。彼のローションは容器や値段にこだわっているためか意外にも需要があり、売上は好調だ。
「お、またメルカリから通知が来てるやんけ」
おじが通知音に心を踊らせスマホを覗き込む。どうやら出品中のローションにコメントが来ているようだった。
『初めまして。こちら購入しても親にばれませんか?』
彼のローションの購入者には、このような実家住まいの若年層が多い。このようなやりとりにも、おじはもう手慣れたものである。
『中身が分からないように発送致しますのでご安心ください』おじはそう返信し、アプリを閉じた。
「でもなんでキッズはそんなバレるの気にするんやろな。別にローションくらいええやろ。まあこいつらのおかげで俺の財布が潤うんやけどな。ローションだけにファハw」
その後、おじは手作業で丹精込めて新品のローションをこしらえると、ボトルに詰め替え丁寧に梱包する。そこには確かに熟練のローション職人としての技術が感じられた。
-三日後-
「なんやねんこいつ!」
その日おじはメルカリユーザーに初めて『残念だった』の評価をつけられしまった。おじは梱包も発送も何も問題がなかったことを思い返しながら、急いでメッセージを確認する。
『最悪です。バレないって言ったのに親にバレました』
どうやらおじに落ち度はなかったようだが、親にローションが買ったことがバレてしまったキッズが腹いせに低評価を付けたようだった。
これにはおじは納得できないという理由でアプリから抗議のメッセージを送る。
「知らんがな! バレたとしてもおじに落ち度は無いんなら低評価はおかしいやろ」
しかし、しばらく待っても評価が撤回される様子はなかった。
「しゃーないな、メルカリ運営に直談判するで」
理不尽な低評価に怒りを覚えたおじは、携帯電話を手に取りメルカリ運営にクレームの電話をかける。電話を取ったのは若い女性だった。
「はい、こちらメルカリカスタマーサポートです。本日は……」
「チャウチャウ。なってないねんお前ら」
「あの、どうされましたか」
「まずは謝罪やろ!!!」
おじのストレスはMAXに達しており、つい声を荒げてしまった。しかしよくよく考えればこの女性には何も悪くないことに気づき、おじは気まずい気持ちになる。
「申し訳ありませんお客様。本日はどういった御用でしょうか?」
「あのな、おじローション売ってん。でなローションを別のボトルに詰め替えてん。でもな、購入したキッズが親にローション買ったのバレたって逆ギレして低評価してきたんや。何とかならんか?」
俺は一気に早口で捲し立てた。気まずそうに女性オペレーターが口を開く、
「あのお客様……アダルトグッズの販売は規約にあります通り禁止されております」
「おじローションはアダルトじゃないねん! これはジョークグッズや!」
「いえ、しかし……」
「チャウチャウ。これをアダルトって言い張るんならお前らの頭の中がアダルトやで!?」
「ではこのローションは具体的にどういった目的で使用されるものでしょうか?」
「あ、え、おじローションはな、嫌いな人の家の前にまくねん」
おじは焦りからか意味不明な説明を行う。アカウントごと抹消されてもおかしくない危険な言い訳だ。
「はあ、かしこまりました。では説明文の方にそのように記載してください。低評価の方は私どもの方で削除しておきますので」
しかし意外にもメルカリ運営は話が通じるようで、何とかなったみたいだ。おじは心のなかで「クレーム通すなんてちょろいんですわぁ」とガッツポーズした。
「おうわかったで、おつおじ」
おじは勝利の余韻に浸ると、早速ローションの説明文に『嫌いな人の家の前に撒く用です』と馬鹿が考えたとしか思えない一文を付け足した。
-翌日-
今日もローション職人の朝は早い。おじは早起きをすると朝からメルカリ販売用のローションを作ることにした。
「ん、ボトルが切れたな」
しかし、詰め替え用のボトルが切れてしまったため、ボトルを買いに家を出る。階段を降りようと差し掛かった時、異変は起こった。
「なんやここ、滑るぞ!」
なぜかおじの家の階段にはローションが撒かれていた。おじは勢いよく足を踏み外し転落していく。
「うわあああああああああああああ!!!」
DEAD END
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