おじギバー

「世の中にはな2種類の人間がおんねん。与える側ギバー受け取る側テイカーや」


ある日のデュラララチャット。おじは唐突に意味不明なことを語り始めた。


「何言ってんの、おじ!」


おばぶが容赦なくツッコミを入れるが、おじは気にせず語り続ける、


「おじな、与える側ギバーやねん」


おじによるとギバーの特徴は、

・自分よりも相手を優先する

・見返りを求めない

・困っている人を放っておけない

などが挙げられるようだ。


「……」


しかしみんなは、ことを知っているので、沈黙するしかなかった。


「何で黙るんや? まぁええわ。おじの面白い話聞かせてあげるで」


そう言うとおじは語りだした。


「おじな、めっちゃモテんねん」

「嘘つくな」

「イヤッ! 嘘ちゃうで」


おじのモテるという勘違いを一瞬で見抜いたのは――よのというおじのライバルだ。しかし、おじはそれを頑なに認めず、モテるアピールを続ける、


「おじな、昔免許合宿めんきょがっしゅく通ってん。ほんでなある日、合宿部屋にいたらJK3人にやらないかって押しかけられてん」

「それ美人局つつもたせだよ」

「いやチャウ。しかもな、おじその誘いを普通に断ってん。すごないか?」

「おじのその話聞くのもう4回目くらいなんだけど^^;」


おじはこのエピソードを気に入ってるようで、おじファミリーのメンバーは何度もこの話を聞かせられていた。


「でもな、この話ですごい所はな、おじが誘惑に打ち勝ったっちゅうことやねん」

「ビビってただけだろ」

「チャウチャウ! ビビッてへんわ! おじは女の子らしい女が無理やねん」

「つまり男が好きってこと?」

「ちゃうわボケ! そういう女はなんかムカつくんや」

「おじ落ち着きなよ。あたしは?あたしはありなの?」

「おばぶは……まあ、ありやで」

「ちょっと反応悪くない!? おじ、うちのこと好きじゃないの?」

「いやちゃうねん」


おじは罰の悪そうな顔をして言葉を詰まらせる。


「おばぶはな……おじのこと心の底では見下してる感じあるからな」

「え!? そんなことないよ、うちまじおじリスペクトだもん」

「ほーん、そか。じゃあこれからもおじ愛を与えていくで」


おじはあくまでも自分が与える側というスタンスを崩さないようだ。


「おじが与える側とするならば、一体おじは何を欲しているのか」


そこに哲学的な問いかけが投げかけられた。おじはそれに対し、


「これは言っておくぞ。お前らはな、おじの受け取りたいもの全くと言っていいほど与えてくれないで」


と答えた。


「えぇ……」

「まずな、おじの好きな物わかっとるか?」

「他者からの承認?」

「チャウ! おじのこと見てきてる人間ならわかるはずやで」

「誰も見てきてないから答え教えて」


おじが期待する答えを誰も持っていないようで、おじは渋々自ら答えを開示した、


「おじな好きなものそれは、情熱パッションや」

「……」


その答えに、リスナー達は冷ややかな反応を示す。


「なんやその反応! オマエラ陰キャやから情熱とか理解できひんのやろ!」

「おじも無職なんだから情熱とかないだろ」


その、よのの一言がおじの逆鱗に触れてしまった。


「オマエラいい加減にせいや! おじは無職だったことは人生で一度もないで?」

「でも今働いてないよね」

「こちとらローション売ってんじゃ! 舐めてんとちゃうぞ!」

「転売とかせどりとかやってる奴も世間一般では無職だから」

「ええんか? そんな態度取ってると、おじお得意の『アンチを炎上させる』手法使うで?」

「初めて聞いたけど何それ」

「アンチを燃やすにはどうしたら良いか。おじが出した結論は、アンチを顔出しで配信に引きずり出せばええってことや」

「俺が顔出しするわけないじゃん。てか誰も出てくれないだろ」

「だからそこやねん。お前らおじと違って顔出し配信できるほどの情熱ないやろ」


顔出しできる点でマウントを取ることに成功したおじは更に調子づいて言う、


「お前ら転売とかせどりを悪くいうけどな、おじに言わせてみればおじの方が立派な仕事してるで」

「転売ヤーの自己弁護乙」

「チャウチャウ! お前らわかってへんわ。だいたいお前ら自分の仕事嫌々やってんのやろ?」

「やってませんけど^^;」

「イヤ! やってるねん! それに比べたらおじの仕事は全く苦にならんねん。なぜならそれはな、おじは他人のありがとうを集めてるからやで」


その発言をしたおじは笑顔でこそあったが、瞳の奥には底知れない虚さが感じられた。


「ありがとうを集めるって何。なんかきもいよおじ」


普段はおじに肯定的なおじファミリーの反応も辛辣だ。それがまるで聞こえていないかのように――おじは話を続ける、


「この世に存在する全ての人間は、常に誰かに感謝されとんねん。例えば電車に乗っている時、おじの隣におばあさんが座ったとする。お前らは何もせんのやろ?」

「……うん、普通になにもしないけど」

「おじはな、おばあさんに席を譲るねん」

「おじなんか間違えてない? 既に座ってるおばあさんに席を譲るの?」

「せやで」


一見おじの言い間違いに思われたが、誤魔化しなのかおじは電車内で――既に席に座っている人に席を譲るという奇行を行っているらしい。リスナーたちはおじに恐怖を感じた。


「それなんか意味あるの?」

「お前らわかってないねん。あのな? 席を譲ったらな、ありがとうが貰えんねん」

「え、それっておばあさんに対して良いことをしたいとかじゃなく、単にありがとうって言われたいってこと?」

「チャウチャウ。ありがとうって言ってるんやから、それはおじに感謝してないとおかしいやろ」


おじは完全に頭のネジがぶっ飛んでいて、感謝が欲しいから席を譲っているだけなのだ。


「おじって頭おかしいやつだとは思ってたけど、ここまで頭おかしかったんだな」


よのがポツリと漏らした。


「チャウやろ! よの、お前は典型的なテイカーや!」

「俺がテイカーなら俺はお前から何かを与えてもらわなければならないわけだけど、一体おじは俺に何を与えてくれるのかな^^」

「……」

「あらら黙っちゃったね思いつかないんだ。じゃあ俺からもおじにプレゼントを上げるよ」


そうしてよのはおじの部屋にBOTを導入し、大量のログで部屋を埋め尽くし荒らし始めた。


「これが俺からの愛だよ……おじ」


BAD END

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