おじ小説短編集~デュラチャ最強おじ伝説~
ヌマルネコ
おじローション
「おじな……ナマポ受給しようと思ってんねん」
デュラララチャットにおじという男が居た。
「えー! まじで?! なんで?」
おじの部屋で話を聞いてるのは、ばぶりしゃすという名前のユーザーだ。
「おじ、ローション売ってたやろ? あれな、毎日ボトルにローション詰め替えてたんやけどな、昨日ローションを床にぶちまけてん。
ほんでな? 思ったわけよ。毎日毎日ローション詰め替えて小銭稼いで、おじ何してんのやろって」
「………」
「そしたらもうね、生きる意味が分からなくなってん。だからナマポ貰おうかなって。あ、ナマポはもう申請したから安心して」
「いやいや、全然安心できないんですけど。おじ前ナマポとか絶対やだって言ってなかった?」
「ナマポはナマポでもな、他のナマポとは訳が違うねん」
「何が?」
「おじにはな、魂があんねん」
「いやいや魂ってw」
おじの言い分は――おじの魂の輝きは他のチャット民とは全然違うというものだった。おじはただのおじではない。特別な存在なのだ。
「今はまだわからんと思うけどな、いつかわかる時が来る。なんでみんなわかってくれんのやろうな」
「普通わからないから」
「お前もいずれ分かる時が来る。その日まで精一杯生きろ。以上」
「ちょっと待って、どこ行くの?」
「ナマポ貰ってくるわ。また来る」
「来なくていいです」
***
次の日。
おじがナマポの不正受給を企てていると聞いたばぶりしゃすはおじファミリーを招集し、対策会議を開いていた。
「というわけで、おじはナマポ受給しようとしてるらしい。なんでニートってニートに陥るんやろな」
昨日のおじが話していたナマポドリームを簡単に解説した後、本格的におじについての議論が始まる。
「ちょっと待ってください。対策会議って、おじを一体どうするつもりです?」
おじファミリーの良識派が発したその質問に対し、長い沈黙を経て、ばぶりしゃすは思い詰めた顔で宣言する、
「おじを、真人間にする」
「!?」
「いや無理無理」
周りからは、おじが真人間になるなんてありえないという声があがった。
「このまま、おじがナマポ貰うようになったら『棲み分け』られちゃうんだよ? そしたら――もうこの部屋でみんなで集まってキャスすることもできないかもしれない」
ばぶりしゃすの声色はかすかに震えていた。それは彼女のおじ部屋に対する深い愛情と呼応しているようだった。
「全然チャウ!」
その時、おじの飛ぶ鳥を落とすような声が響き渡る。
「おじはナマポもらってもこの部屋続けるで!」
「え……?」
ばぶりしゃすは目を丸くした。
「おじはな、ネットのアンチを倒すまでやめられないねん。ナマポとかな、関係ないねん。全然チャウチャウ」
「おじ……でも、生活保護もらいながらチャットするっていうのは“甘え”だろ」
「チャウ! お前らな、それ誹謗中傷やで?」
「いや、だって……」
「それにな、ナマポもらったからって別にニート卒業する訳でもないねん。むしろ堂々とナマポもらえる分、前より自由になれるくらいやで」
「おじは自由になりたかったってこと?」
「チャウチャウ! おじは元から自由やねん」
おじが息を巻きながら喋っているそのとき、彼のスマホからメルカリの通知音が鳴った。
「なんやねんこれ!」
おじが叫んだ。その画面にはこう書かれていた。
『あなたのアカウントが凍結されました』
おじの部屋が一気に騒がしくなる。
「なんか悪いことしたん?」「ローションなんか売ってるから…」「いや、それはないやろ」
様々な憶測が飛び交い、議論がヒートアップしていく。
「おじはジョークグッズやってちゃんと商品説明に書いてるんやって!
お前らのせいやろ! お前らアンチが通報するからこんな事になってん! 最後の最後までおじの足引っ張るなや!」
おじの言い分では、おじが売るローションに全く問題ないが、アンチの通報のせいで運営に目をつけられたということらしい。
「でもまあええねん。おじはこれからナマポ貰って、そのお金で起業すんねん」
その時、おじの家のインターホンが鳴った。
「ん? 誰やこんな時間に」
ドンドンと扉を叩く音が響き、おじの家の扉が無理やりぶち破られる。
「警察だ! 南○○! お前に逮捕令状が出ている!」
「チャウチャウチャウ! おじなんも悪いことやってへん」
「お前がメルカリで販売したローションに薬物反応が見つかった。詳しいことは署で聞かせてもらうぞ」
「チャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウ! おじはローションに"魂"しか込めてへん」
「魂ってそういう……」
警察に手錠をかけられたおじは最後に画面の前で見ている私達に振り返って言った。
「お前ら、おじの"魂"が込もったローション買わんで良かったな? ヘッヘッヘッ」
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