14.彼女のためならそれくらいどうということはない。

 珍しい面子での集まりを終えた俺は、由佳の家に来ていた。

 彼女が祖父母の家から彼女が帰ってきたらしく、家に来て欲しいと言われたのである。

 という訳で由佳の家に来た俺は、そこにいた人物に驚くことになった。月宮がいたのである。


「……それで、どうして月宮がここに?」

「由佳の家に遊びに来たんだ。家の用事が終わったから合流しようと思って涼音に連絡したけど、繋がらなかったから。それで、由佳も暇してるっていうから遊びに来たんだけど」

「ああ、そういうことか……」


 月宮の言葉に、俺は先程までどこにいたかを思い出していた。

 俺達は四人で、水原が選んだアニメ映画を見ていた。二回目であるはずの水原はかなり熱心に映画を見ていたため、月宮からの連絡に気付かなかったのだろう。

 事実として、俺も由佳からの連絡には気付いていなかった。映画館ということもあって気が引けたし、終わるまでスマホは見ていなかったのだ。


「実はだな……」

「あ、事情はもう知ってる。涼音から連絡があったから。映画、見てたんだよね?」

「ああ、磯部と竜太も一緒にな」

「なんだか、珍しいメンバーだね?」

「ああ、そういう話になったよ」


 由佳はいつも通り明るいが、月宮は少し不機嫌なような気がする。俺達が水原と一緒に映画を見たことが、気に入らないのだろうか。

 基本的に、月宮は水原に対する愛が深い。故に俺達に嫉妬していてもおかしくない。


「涼音、その映画は私と見ようって言ってたのに……」

「そうだったのか?」

「うん。もう一回は見たいし特典も欲しいからって」


 水原は、俺達に言ったことと同じことを月宮にも言っていたようだ。

 それはなんとも、罪作りなものである。恐らく本人としては、悪気はないのだろうが。


「そういうことなら心配しなくてもいいと思うぞ。水原はまた見に行くと言っていたからな。特典がまだコンプリートできていないとかで」

「あ、そうなの?」

「ああ、本人曰く何度見てもいいらしい」

「それは、涼音らしいといえば涼音らしいかな?」

「確かにそうかも……」


 由佳のフォローもあって、月宮は少しだけ納得してくているような気がする。

 そのことに、俺は少しほっとした。今回の件で、また二人が拗れたりしたら嫌だったからだ。

 もっとも、由佳の態度からしてこれはいつものことなのだろう。そんなに焦る必要は、なかったのかもしれない。


「でも、その映画は私も見たかったな……」

「え?」


 そこで由佳は、少し目を細めて俺の方を見てきた。

 その視線に、俺は思い出す。俺がかつて、竜太や江藤と由佳よりも先にカラオケに行った後のことを。


「……いや、俺も二回くらいは見てもいいと思っているから、大丈夫だ」

「あ、そうなんだ」

「へー、それじゃあ今度は四人で行こっか?」

「あ、ああ……」


 月宮の言葉に、俺は少し視線をそらすことになった。

 正直、一度見た映画をもう一度見に行きたいとは思わない。水原に払ってもらおうとは思わなかったため、今回も自腹を切った。同じ内容を見に身銭を切りたくはない。

 ただ、由佳の笑顔のためなら大丈夫だ。それくらいどうということはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る