11.それは神様に頼むことではない。
神社で年を越した俺達は、そのまま初詣を始めていた。
俺達はお賽銭箱に小銭を入れた後、手を合わせる。神社にはそれなりに人がいるため、俺達はすぐにお賽銭箱の前から去っていく。
「……ろーくんは、何を願ったの?」
「うん? ああ……」
皆が集まっている所に向かいながら、由佳は俺に質問をしてきた。
当然のことながら、俺も神様にお願いをしている。その内容を話していいのかどうかは、少々微妙な所だろう。こういうことは話さない方が叶うといわれることもあるからだ。
ただ、別に隠すようなことではないし、話すことしよう。由佳に隠し事をしたいとは思わないし、神様が叶えてくれなくても、自分で叶えればいいことだ。
「受験勉強が上手くいくように願っておいた」
「え? もう?」
「もうとは言うが、俺達は今年で三年生だろう。そのことは意識しておかなければならないことなんじゃないか?」
「そ、それはそうだけど……でも、もう少し考えたくないなって」
「気持ちはわかるよ」
俺の願いに対して、由佳は苦笑いを浮かべていた。
彼女の気持ちは、とてもよくわかる。俺だって、本当は受験のことなど考えたくはないからだ。
しかし現実問題として、俺達はそれを考えなければならない段階に差し掛かっている。それから目をそらしても、仕方ないことなのだ。
「私もそっち方面のことを願っておけばよかったかな……私はろーくんよりも、不安だし」
「それなら問題はない。俺は自分と由佳のことを願っておいたからな」
「あ、そうなんだ? 私もね、自分とろーくんのことを願ったよ。二人がずっと健康で一緒にいられるようにって」
「そうか。考えることは同じという訳か……」
神様に願う時に、俺は自然と由佳のことも願っていた。
由佳も同じだったということは、とても嬉しい。それだけ、彼女が俺を想ってくれていることがわかるからだ。
「でも、てっきりろーくんも一緒にいられるようにって願うかと思ってた。だって、ついさっきそう言ってくれたし」
「それは……」
由佳は、少し不安そうにこちらのことを見てきた。
それはつまり、先程の言葉が嘘偽りではないかと、思っているということだろう。流れ的には、確かにそれを願う方が自然であるし。
それに関しては、俺の頭にも過った。ただ、俺は敢えてそれを願わなかったのだ。
「俺が本当に、自分で叶えなければならないことだと思っているからな」
「自分で叶えなければならないこと?」
「俺は由佳に寂しい思いをさせてしまった。一度失敗しているんだ。それなのに、そのことまで神様に頼っていたら、みっともないからな」
由佳と一緒にいることまで、俺は神様に頼ろうとは思わない。それは自分の手で、成し遂げてみせる。いや、成し遂げなければならないことだ。
「……ろーくんって、結構律儀だよね?」
「む? そうだろうか?」
「うん。そういう所も、大好き」
由佳の笑顔に、俺は少しだけ固まってしまった。
やはり、この笑顔を曇らせてはならない。俺は改めてそう決意するのだった。
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