10.今年の終わりには一抹の寂しさを感じる。

 今年の終わりを告げる鐘の音が、辺り一面に響いている。

 その除夜の鐘の音は、毎年聞いていたものだ。ただ、今年の終わりというものは、前年までとはまったく違うものであるため、音が特別に聞こえる。


「九郎、なんだか寂しそうだな?」

「寂しそう? そうだろうか?」

「ああ、そんな顔をしていたぞ?」


 そんな俺のことを、竜太はそのように表した。

 自分の表情というものは意識していなかったが、その評論には納得することができる。俺は確かに、一抹の寂しさを感じていたからだ。


「そうかもしれないな。今年一年は、本当に色々なことがあった。由佳と再会して、竜太や他の皆とも知り合って、そう考えるとなんだか寂しいような気もする」

「なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれないな。去年までも色々とあったが、今年は本当に変化の一年だった。皆、色々とあったからな……」


 竜太は、少し遠くを見つめてそんなことを言った。

 確かに、四条一派にも色々な変化があったといえるかもしれない。

 由佳が俺と付き合いだした訳だし、水原は秘密を知られた。月宮の事件もあったし、新見の恋にも動きがあった。竜太自身だって、四条のことで動き始めている。


「まあ、高校二年生といえば、そういう時期なのかもしれないな。来年には俺達も受験である訳だし、変化するのは当然の一年なんじゃないか?」

「……そうだろうか? 俺はそうは思えないな。この一年が変化の一年だったのは、きっと九郎がいたからだ」

「俺?」

「全ての始まりは、九郎と由佳が再会したことだ。少なくとも、俺の変化はそれがきっかけだということはわかっているだろう?」

「まあ、それはそうだが……」


 竜太の言葉に、俺は曖昧な返事しかすることしかできなかった。

 俺の存在で、四条一派に変化が起こったなんて、にわかには信じられないことである。そんな影響力は、俺にはないはずなのだが。


「いや、すまない。つまりさ、何が言いたいかっていうと、結局さ。俺は九郎と出会えてよかったと思っているんだ。それはきっと、皆同じだ。お前と友達になれてよかった。それがなんだか、急に伝えたくなったんだ」

「竜太……」


 竜太は、俺にゆっくりと自分の思いを語ってくれた。

 それに俺は、面食らっていた。そんなことを言われたのは、生まれて初めてである。故にすぐに反応することができなかったのだ。


「ははっ、俺も雰囲気に呑まれたって所かな? それじゃあ、後の時間は由佳のために使ってくれ」

「あ、おい……」


 俺が呆気に取られている内に、竜太は行ってしまった。

 追いかけようかとも思ったが、それはやめておく。あいつにはあいつの戦いがあるからだ。

 ただ一つ言えることは、出会えてよかったというのは俺の台詞だということである。皆に出会えて、俺は変われたのだ。それは間違いない。


「ろーくん、もうすぐ今年が終わっちゃうね?」

「由佳……」

「どうかしたの?」

「いや……」


 竜太と入れ替わるように、由佳は俺の元へとやって来た。

 もしかしたら彼女は、先程の話を聞いていたのかもしれない。

 しかしそれは別に追及するべきことという訳でもないだろう。そんなことよりも、俺は言わなければならないことがあるのだから。


「……去年の今頃、俺は家で一人で除夜の鐘の音を聞いていた。それを由佳や皆と一緒に聞けていることが、なんだか嬉しいんだ」

「そっか。私もろーくんと一緒に年が越せるのは、すっごく嬉しいよ?」

「ありがとう……由佳、来年もこの先も一緒に年を越そう。俺はずっと、由佳の傍にいたいんだ」

「ろーくん……」


 俺の言葉に、由佳は少し驚いたような表情をした。

 急に決意表明をしたため、引かれただろうか。少し熱が冷めた俺は、そんなことを危惧してしまった。

 しかし、由佳はすぐに笑みを浮かべてくれた。俺の心配は、杞憂だったようだ。


「嬉しい。私もずっと、ろーくんの傍にいたい」

「ああ……おっと」

「……年明け、だね?」


 俺達がそんな会話を交わしていると、空に大きな花が咲いた。

 それは新年を祝う花火だ。つまり、新しい年が始まったのである。

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