5.こたつというものはとても魅力的なものだ。

 こたつというものは、とても魅力的なものだ。

 そこに入ると、抜け出すことができなくなる。そんなこたつの魔力に、俺達は今飲まれているといえるかもしれない。


「あ、ろーくん、みかん食べる」

「ああ、もらってもいいか?」


 俺と由佳は、こたつの一面に二人で入ってテレビを見ている。

 テレビでやっているのは、年末特有の特番だ。こういうものを見ていると、年の暮れなのだということを改めて実感する。


「あ、私がむいてあげるね?」

「いや、それくらいは自分で……」

「ろーくんは、みかんの白い筋ってどれくらい気になる?」

「え? まあ、そんなに気にする方ではないが……」


 俺の制止する言葉を特に聞くこともなく、由佳はみかんの皮をむき始めた。

 もちろんありがたいことではあるのだが、少々気まずい。なぜなら、この場にいるのは俺達だけではないからだ。


「あなたもみかん食べる?」

「ああ、せっかくだからもらおうかな」


 この場には、由佳の両親もいる。俺達の隣で、それぞれこたつに入っているのだ。

 瀬川家のこたつは、リビングにある。暖を取るためにそこに入った俺達は、こたつの魔力に負けて由佳の部屋に行くこともなく、この場に留まり続けていた。

 その結果由佳の両親もリビングに来て、俺にとって幾分か気まずい状況になってしまったのである。


「それじゃあ、由佳に倣って私がむいてあげる」

「お言葉に甘えようかな」


 由佳の家で食事などをすることも多いため、由佳の両親と一緒に過ごすことにも、ある程度慣れているつもりだ。

 ただ、こたつというシチュエーションはまた違うものである。距離感がさらに一段階近づいているような気がするのだ。


「はい、ろーくん、あーん」

「あ、あーん……」


 当然と言えば当然だが、由佳はいつも通りの態度である。

 彼女にとって、この空間は特に緊張するものではない。その眩しい笑顔からは、それがよく伝わってくる。

 それを見ていると、俺の緊張も少し解れてきた。それもきっと、由佳の狙いなのだろう。


「おいしい?」

「ああ、おいしい」

「そっか。それなら、よかった」


 みかんを口にした俺は、月並みな感想を口にした。

 ただ、みかんの味よりも由佳の指が気になっていたというのが正直な所だ。

 彼女の指は、俺の唇についていた。結果として俺は、由佳の指にキスをする形になったのである。


「私も一つもらっていい?」

「ああ、構わないが」


 俺の許可を取ってから、由佳はみかんを口に運んだ。

 これもまた一つの関節キスである。由佳の両親の前で、そんなことをしてもいいのだろうか。俺の頭には、そんな考えが過った。

 もっとも由佳からしてみれば、これは取るに足らないことなのだろう。結局の所、俺が意識し過ぎているだけのような気がする。

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