37.これからしっかりとこの行事の思い出を作るとしよう。
あれよあれよとしている内に始まった文化祭は、それなりの盛り上がりを見せていた。
クラスの出し物である喫茶店も、それなりに賑わっている。売上的には、どうやら順調であるようだ。
「さて、どこに行こうか?」
「うーん、色々とあるから迷っちゃうね……」
そんなクラスの出し物の担当時間も終わって、俺と由佳は文化祭の出し物を回ることにした。
去年の俺は、自分の担当時間だけ来てすぐに帰っていた。故に今年初めて、我が校の文化祭に触れるといっても過言ではない。
そのためか、少し気分が高揚している。もしかしたら俺も文化祭の盛り上がりに、当てられているのかもしれない。
「ろーくんは、どこか行きたい所とかないの?」
「まあ、特にないな……強いて言うなら、知り合いがいる場所か」
「あはは、やっぱりそうなるよね」
由佳に聞かれて俺が思い付いた行き先は、ありきたりなものだった。
やはり、知っている人がいるというのは大きい。それだけで足を運びたくなる。
「実際に、私達の所にも来たもんね?」
「ああ、まあ由佳は裏方だった訳だが……」
「ふふ、ろーくん、色々な人の接客してたよね」
「まあ、そうなることはある程度覚悟していたが……」
俺達のクラスにも、色々な人が訪ねてきた。
水原や月宮、磯部や新見、それから高坂妹なども来た。
しかし、その人達はまだいい。問題は、家族が訪ねてきた時だ。
「俺の両親と由佳の両親が来た時は少し参ったな……」
「四人とも楽しそうだったね」
「しかし俺としては、なんというか居たたまれない気分だった」
「そういうものかな?」
「そういうものなんだ」
行事全般にいえることだが、両親が来た時のあの居たたまれなさはなんなのだろうか。
どうしたらいいのか、わからなくなってしまう。由佳などはそういう訳ではないらしいので、結局個人の問題なのだろうが、俺はいつまで経ってもあの状況に慣れられない気がする。
「……よし、とりあえずまずは江藤の所にでも行ってみるか?」
「江藤君の所……ああ、サッカー部の出し物だね?」
「ああ、外の屋台……焼き鳥屋だけど」
「人気高いよね」
俺は先程まで、江藤ともに接客を行っていた。
その江藤は、今はサッカー部の出し物をやっている。部活もある人は、そういう風に大変なのだ。そう考えると、俺達は気楽といえるかもしれない。
「それじゃあ、行こっか?」
「ああ、文化祭を楽しむとしよう」
「うん!」
俺と由佳は、ゆっくりと歩き始める。
俺達の文化祭は始まったばかりだ。これからしっかりと、この行事の思い出を作るとしよう。
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