36.改めて聞かされると込み上げてくるものがある。

「今日のお弁当は、サンドウィッチか……」

「うん。文化祭用のお試しだよ?」

「お試しか……」


 俺は、由佳が作ってくれた卵のサンドウィッチを口に運ぶ。

 当然のことながら、とてもおいしい。ただ、いつもと少し異なる味付けである。

 それは当然のことだ。このサンドウィッチは、文化祭で出すためのものである。いつも作ってくれている俺の好みの味付けとは違うのだ。


「これは、隠し味にマスタードが入っているのか?」

「あ、うん。皆と相談したらね、そっちの方がいいっていう意見が多かったから」

「まあ、おいしいとは思う……当然、俺はいつもの味の方が好きだが」

「いつもは一応ろーくん好みに作ってるからね」


 俺の言葉に、由佳は笑顔を見せてくれた。

 彼女が俺好みに味付けをしてくれていることは、薄々わかっていたことだ。

 しかし、それを改めて聞かされると色々と込み上げてくるものがある。


「由佳は、いつもありがとう」

「え? どうしたの? 急に……」

「いや、由佳が俺のことを思って料理をしていることが改めてよくわかったからな。日頃の感謝を伝えておくべきだと思ったんだ」

「お礼なんていいよ。好きでやってることだもん」


 少し照れた由佳に、俺は見惚れてしまった。

 ここが学校でなければ、彼女を抱きしめていたかもしれない。それくらい、愛おしさが溢れてしまっている。

 本当に俺の彼女はすごい。俺はそれを改めて認識する。


「さてと、それでこれを文化祭で出す訳か……」

「うん。一応、レシピも作ってるんだ。誰が作ってもそんなに違った味にならないように、分量なんかも結構調整したよ」

「なるほど……それは大変だな?」

「うん。いつもは大雑把なことも多いから……」


 由佳は、クラスの文化祭の出し物である喫茶店のメニューを作成する立場となった。料理好きであるため、立候補したのだ。

 基本的に、喫茶店はサンドウィッチと飲み物をメインにするつもりらしい。という訳で、彼女はその試作品の試食を俺に頼んできたのだ。


「でも、せっかくなら来てもらうお客さんにおいしいって思ってもらいたいし……」

「まあ、それはそうだよな」

「うん、だから頑張るつもり」

「由佳は偉いな……まあ、俺もできる限りのことを頑張るか」


 由佳と違って、俺は特に重要な役目を担っているという訳ではない。

 しかしながら、それでもやれることはある。せっかくの文化祭だ。俺にできることを頑張っていくとしよう。

 そんな風にやる気になれるのも、やはり由佳がいるからだ。今年の文化祭は、色々な意味で楽しめる気がする。なんというか、楽しみだ。

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