35.今回の件は適材適所ということだったのかもしれない。

「なるほど、そんなことがあったのか……」

「ああ……」


 穂村先輩と話した後日、俺は江藤と話をしていた。一応報告しておく必要があると思ったからだ。

 江藤は、神妙な表情をしている。やはり、穂村先輩から特に相談されたりはしていなかったのだろう。


「まあ、最近なんとなく落ち込んでいるのかなとは思っていたけど、やはりそういうことだったのか……」

「気付いていたのか……いや、当然か」

「ああ、いくら僕でもそこまで鈍感ではないさ」

「別に鈍感だと思ったことはないが……」


 もしかしたら、俺達は余計なことをしてしまったのかもしれない。

 江藤のことだ。きっと折を見て穂村先輩に質問していただろう。

 それによって穂村先輩の悩みは解決していたはずだ。俺が色々と言う必要なんてなかっただろう。


「ただ、僕が何か言っても答えてくれないような気がしてね。それで攻めあぐねていたんだ」

「攻めあぐねていた?」

「ああ、近し過ぎるからこそ、相談できなかったのかもしれないね。だから、瀬川さんとろーくんには感謝しているよ。ありがとう、美冬姉の相談に乗ってくれて」

「いや……そういうこともあるか」


 江藤の言葉に、俺は少しだけ考えを改めることになった。

 確かに俺も、由佳に全てを相談できるという訳ではない。彼女にだからこそ、言えないことだってあるだろう。

 つまり今回の件は、適材適所ということだったのかもしれない。


「それにしても、ろーくんと瀬川さんは美冬姉と同じ大学を目指すんだね?」

「ああ、そういうことになった。まあ、これからも色々と考えるつもりだが……」

「そうか。うーん……」


 そこで江藤は、また神妙な顔をし始めた。

 しかしそれは先程までとは違うものだ。大方、穂村先輩と同じ大学に行きたいとか言い出すのだろう。


「美冬姉と同じ大学に行きたいなぁ……」

「やっぱり、そういうことか……」

「いやだってさ、彼女と同じ大学には行きたいだろう?」

「気持ちはわかるが、それだけで大学を決める訳にはいかないだろう」

「ああ、そうなんだよ。そんなことをしたら、美冬姉に怒られるだろうし……高校まではまあ、なんとかなったんだけどなぁ」


 江藤は頭を抱えて悩んでいた。

 それがこいつにとって、とても深刻な悩みであるということは理解できるつもりだ。俺だって、由佳と同じ大学を目指せる状況でなければ悩んでいたかもしれない。


「おっと、しまった。こんな風に話している場合ではなかったね。そろそろ手を動かさないと……」

「ああ、そうだったな。文化祭の準備か……去年もやったが大変なものだな」


 そんなことを話し合いながら、俺達は文化祭の準備を進めていた。

 もうすぐ文化祭である。それは穂村先輩の最後の仕事だ。

 その文化祭を盛り上げるためにも、しっかりと働かなければならないだろう。

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