31.どうせ後悔するなら精一杯やって後悔したい。

 せっかく会ったということで、俺と由佳は穂村先輩と昼食をともにすることになった。

 それぞれメニューを選んで、穂村先輩の対面に座って食堂での一時は始まったのだが、しばらく話してあることがわかった。穂村先輩は、少し元気がないのである。


「美冬さん、どうかしたんですか?」

「うん?」

「その、なんだか元気がないような気がするんですけど……」


 俺がそれに気付いた時、由佳が穂村先輩に問いかけた。

 やはり彼女も、穂村先輩の様子には気付いていたようだ。いや俺よりも親しい関係である訳だし、それも当然か。


「元気がないか……まあ、そうかもしれないね」

「何かあったんですか?」

「何かあったという訳ではないかな? これから、何かあるというか……ある役目が終わるというか」

「ああ……」


 穂村先輩の曖昧な返答に、俺はとあることを思い出した。

 そういえば、もうすぐ生徒会は代替わりなのである。次の文化祭を最後の仕事として、今の生徒会は終わりを迎えるのだ。


「そっか。生徒会は、代替わりなんですね……」

「ふふ、そのことに少し寂しさを覚えていてね」

「そうですよね。美冬さんは、長い間生徒会の一員として過ごしていた訳ですし……」

「ああ、そうなんだ。それになんというか、学園生活ももうすぐ終わりなんだなって思ってしまって……」


 穂村先輩は、色々なことに対して終わりを感じてしんみりとしているらしい。

 それは仕方ないことだといえるだろう。何かの終わりが迫ってくるのは、物悲しいものだ。


「ああいや、すまない二人とも。暗い雰囲気にさせてしまったね……」

「いえ、気にしないでください。この際、全部吐き出してください。人に話すと、多少はすっきりすると思いますし」

「ええ、俺達は気にしませんから」


 穂村先輩は、俺達に対して苦笑いを浮かべていた。

 そんな彼女になんと言えばいいのか、俺は少し考える。


「残っている学園生活は、残り四か月くらいかな……そう考えるととても短いね? その短さが、正直私は怖い」

「四か月、ですか……」

「この四か月、私は楽しめるのだろうか。私は今、そんな不安を感じているんだよ」


 卒業というものは、俺も当然体験したことはある。

 ただ、小学校の時も中学校の時も、俺は穂村先輩と同じような憂いは感じていなかった。

 それはきっと、俺が学校という場所を楽しいと思っていなかったからだ。しかし今は違う。そう思った瞬間、俺が言うべきことは決まった。


「……穂村先輩、一ついいですか?」

「うん? 何かな?」

「去年……一年の時、俺は腐っていました。学校を楽しいだとか、そういったことは思っていなかったんです。でも、俺は二年になって由佳と再会して、一年の時には考えていなかった程に、ここでの生活が楽しくなったんです」

「ほう、そうだったんだね……」


 俺の言葉に、穂村先輩は少し驚いたような顔をする。

 彼女がどこまで事情を知っているのかはわからない。もしかしたら由佳に、ある程度のことは聞いているのだろうか。

 それは少し気になったが、俺は話を続けることにする。今俺が伝えたいのは、俺の正確な過去などではない。


「俺は一年の時のことを後悔しています。でもだからこそ、俺は今を楽しもうと思っています。そのことに後悔して、今を楽しめないなんて勿体ないですからね」

「勿体ない?」

「残された時間は限られています。だから今度は、後悔しないように精一杯生きたいってそう思っているんです」

「藤崎君……」


 俺はもう、後悔したくないと思っている。

 もちろん、至らぬ点もある訳だし、それが可能という訳ではないだろう。

 しかし、かつてのように消極的に生きるのはやめたい。どうせ後悔するなら、精一杯やって後悔したいのだ。


「かつて俺に、そのことを教えてくれた人がいるんです」

「……そうなのかい? それは一体誰から?」

「穂村先輩の大事な人から、ですよ」

「それって……」


 俺の言葉に、穂村先輩は目を丸くした。

 それからすぐに、彼女は笑顔を見せてくれる。やはり、穂村先輩に一番届くのはあいつの言葉だったということなのだろう。

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