30.彼女は食堂に来たことが数える程しかない。
料理好きな由佳は、一年生の時からほぼ毎日お弁当を作っているらしい。
そんな彼女は、食堂に来たことも数える程しかないそうである。お弁当を作る由佳にとって、食堂は来る必要がない場所なのだ。
「しかし驚いたな。まさか、由佳から食堂で昼食にしたいなんて言ってくるなんて……」
「あはは、そうだよね。私もね、こういう提案をするなんて思っていなかったかも」
そんな由佳が、珍しく食堂でお昼にしたいと言ってきた時は少し驚いた。
ただそれには、理由がある。ことの発端は、俺との話である。
「でも、ろーくんが食堂のご飯もおいしいっていうから食べてみたくなっちゃって……それによく考えてみれば、せっかく学校に通ってるのに一回も食堂を利用しないっていうのももったいないようなきがしたし」
「それはそうだな……まあ、これからは時々利用することにしよう」
「うん。せっかくだしそうさせてもらおうかな?」
俺が割と絶賛したことによって、由佳は食堂の食事に興味を持ったようだ。
実際に、食堂の食事はかなりおいしい。もちろん由佳の手料理に勝るものは存在しないが、それでも俺はこの食堂はおすすめできる所だと思っている。
「あれ?」
「うん? どうかしたのか?」
「あそこにいるのは、美冬さんじゃないかな?」
「美冬さん? ああ、穂村先輩か」
そこで由佳は、食堂の窓際に腰掛ける黒髪の女性を発見した。彼女は、江藤の彼女であるこの学校の生徒会長である穂村美冬先輩だ。
学校行事などで姿を見ることは何度かあったが、こうやって日常で彼女を見るのは久し振りなような気がする。
ただそれは、仕方ないことだ。三年生である彼女は忙しい。夏休み前のように気軽に遊んだりすることはできないというのが現状なのだろう。
「美冬さん、お久し振りです」
「ああ、由佳さんか。これは随分と久し振りだね」
「む……」
俺が色々と考えている内に、由佳は穂村先輩に近づいていた。
俺もそれに続いていくが、なんというかどうにも違和感がある。由佳と穂村先輩は、久し振りに会った割には親しそうなのだ。
「こうやって面と向かって会うのは随分と久し振りだね」
「学年が違うと、やっぱり中々顔を合わせられませんからね」
「ああ、藤崎君も久し振り」
「お久し振りです」
俺は、由佳と穂村先輩を交互に見た。
やはり二人の間に流れる雰囲気は、とても柔らかい。というかそもそも俺の知っている二人は、こんなに親しかっただろうか。
「ろーくん、あのね。実は美冬さんとは結構連絡を取り合っていたんだ」
「え? そうだったのか?」
「ふふ、彼氏同士が親しくしているからね。それで私と由佳さんも結構親しくさせてもらっているんだ。もっとも、お互いに予定が合わなくて直接顔を合わせるのはかなり久し振りになってしまったけど……」
「そうだったんですか……知りませんでした」
由佳と穂村先輩がいつの間にか仲良くなっていたなんて、まったく知らなかったことである。
由佳は友人が多いということは知っていたが、それは穂村先輩にも及んでいたといった所だろうか。
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