29.文化祭にもいい思い出はない。

 二年生である俺達にとって、二学期で最も大きな行事は修学旅行であるだろう。

 しかし、二学期にはまだ大きな行事が残っている。それは文化祭だ。

 現在、クラスでは話し合いが行われている。文化祭の出し物をどうするか、皆頭を悩ませているのだ。


「ねえ、ろーくん。ろーくんは、文化祭の出し物は何がいいと思う?」

「……まあ、無難に飲食系の何かがいいんじゃないか? その意見が、一番多い訳だし」

「やっぱりそうかな?」

「手堅いからな……」


 文化祭の出し物というのは、色々とあるだろう。

 クラス単位の出し物でいったら、お化け屋敷とか迷路とか考えられない訳ではない。

 ただ雰囲気的に、飲食系の何かに落ち着きそうだ。強い意志でもなければ、無難な選択になるだろう。


「まあなんというか、俺達のクラスはそんなに熱量があるという訳もない。無難にやっていくという感じがする」

「あーあ、それはそうかもね。引っ張っていく人とかがいないし、そうなりそう」


 既に長く過ごしたため、クラスの雰囲気はそれなりに理解しているつもりだ。

 このクラスは、実の所結構落ち着いている。由佳も含めて、学年でも目立つ存在は多々いるが、誰も前に出て引っ張ろうというタイプではないのだ。


「磯部とか月宮とか、その辺りがいれば話は違ったのかもしれないが……」

「あ、うん。その二人のどっちがいたら、絶対今とは違う形になっていると思う」


 俺の言葉に、由佳は力強く頷いた。

 その動きには、実感がこもっているような気がする。何か覚えがあるのかもしれない。


「そういうのも楽しくていいとは思うんだけどね」

「そういうものなのか? 俺にはわからないな。思えば、文化祭なんてものの記憶自体がそれ程ない……」


 そこで俺は、今までの文化祭のことを思い出す。

 中学の時も一年の時も、俺は最小限の参加しかしていない。言われたことをやって、それで終わりだった。楽しい思い出なんてものはない。

 ただそれは、なんというかいつものことである。俺が学校行事に縁がないなんて、今に始まったことではない。


「そうなんだ……それなら、今年は楽しもうね?」

「……ああ」


 由佳の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。

 今年の文化祭は、できるだけ楽しみたいと思っている。準備も当日も、由佳と一緒にそれらの時間を噛みしめたい。それが俺の今の素直な気持ちだ。


「ちなみに、由佳はどんな出し物がいいと思っているんだ?」

「私? 私はやっぱり飲食系かな? なんでもいいから作りたい」

「なるほど……」


 俺の質問に、由佳は笑顔で答えてくれた。

 由佳の料理が、不特定多数に振る舞われる。彼氏として、それは少し複雑なような気もする。

 ただ、由佳が接客をするというのも微妙であるし、この際色々と割り切るしかないのかもしれない。

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