28.きっと俺達も仲の良い夫婦になれる。

「ということは何か、九郎はもう由佳ちゃんの両親に挨拶を済ませているのか?」

「まあ、そういうことになるかな……」

「緊張しなかったか?」

「それはもう、緊張したさ」


 俺は勝兄とそんな会話を交わしていた。

 勝兄は、俺が話した内容に目を丸めている。信じられないといった様子だ。


「いくら幼少期にある程度やり取りがあった人達とはいえ、そういう風に挨拶をするのは緊張するよな……よくやったもんだよ」

「まあ、幸いにも向こうが俺のことを認めてくれていた訳だからな」

「俺が九郎くらいの年でそんなことができたかは微妙な所だな……大したもんだよ、まったく」


 勝兄は、俺のことを褒め讃えてくれた。

 自分で言うのもなんだが、確かに俺はすごいことをしたのかもしれない。

 彼女の両親に、結婚したいという挨拶をする。俺は通常ならばもっと年齢を重ねて行うことを、俺は既に終えているのだ。


「九郎君、すごいね。勝馬君よりも、よっぽど男らしいかも」

「おいおい、それはないだろう」

「それじゃあ勝馬君は、学生時代にそんなことできたの? 彼女の両親とかと挨拶したりした?」

「いや、それは……」

「ほら、それなら勝馬君よりも九郎君の方が勇気があるってことでしょう?」

「なんだか格好がつかないな……」


 勝兄と若菜さんは、そのような会話を交わしていた。

 その会話からも、二人の力関係がよくわかる。勝兄は、若菜さんには敵わなさそうだ。

 もっとも、それは俺も同じである。俺は由佳には敵わない。それは紛れもない事実である。


「ろーくん? どうかしたの?」

「ああいや……」


 そんなことを考えながら視線を向けていた俺に、由佳は可愛らしく首を傾げてきた。

 素直に思ったことを言うのは憚れた。由佳に敵わないというのは、悪い意味に取られかねないからだ。

 そこで俺は、二人のやり取りから感じた別のことを話してみることにした。こちらは由佳からの同意も得られるはずだ。


「勝兄と若菜さんはいい夫婦になるんだろうなと思ったんだ」

「あ、うん。それはそうだよね。二人とも、すごく仲良しだもん」

「ああ」


 俺の言葉に、由佳は力強く頷いてくれた。

 やはり彼女も、同じように思っていたようだ。きっと勝兄と若菜さんは、これからも仲睦ましく暮らしていくだろう。


「私とろーくんも、仲の良い夫婦になろうね?」

「……ああ、そうしよう」


 由佳の笑顔に、俺は笑顔を返す。

 きっと俺達も、そうなれるはずだ。俺は根拠のない自信を持ちながら、そう思うのだった。

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