24.その事実だけで俺はそう思えるのだった。

 とある休日、俺は由佳とともにランニングを行っていた。

 大分涼しくなってきたため、走るのにも丁度いい気候といえるだろう。もう少しすると、むしろ寒くなってくるというのがネックではあるが。


「おや、由佳先輩に藤崎先輩ではありませんか」

「あ、静良ちゃん」

「む……」


 そんな俺達は、再び高坂妹と出会っていた。

 もしかして、彼女のランニングコースと俺達のコースは被っているのだろうか。こうやってまた会ったというのは、そういうことなのかもしれない。


「いやはや、奇遇ですね。まさか、またお二人と会うなんて」

「そうだね。偶然なんだろうけど……」

「いえいえ、これは最早運命という奴ですよ」


 高坂妹は、へらへらと笑っていた。

 その笑顔に、俺は少し違和感を覚える。なんというか、含みがあるのだ。

 そこで俺は理解する。高坂妹は、俺達のことを待っていたのだと。

 きっとそういうことなのだろう。いくらなんでも、偶然が過ぎる訳だし。


「ああ、そういえば、由佳先輩にも伝えましたが、藤崎先輩にはお世話になりまして……その節はありがとうございました」

「あ、そうだったんだよね」

「別に世話をしたという程のことでもないがな……」


 そこで高坂妹は、俺に対してお礼を述べてきた。

 どうやら彼女は、そのお礼を言うために俺達を待っていたようだ。

 なんというか、律儀である。別にお礼なんて、必要なかったのだが。


「お陰様で、かなりすっきりとしました。高坂静良、これからも明るく元気に頑張っていきますよ」

「そうか。それなら何よりだ」

「静良ちゃん、なんだかいい顔してるね?」

「由佳先輩の彼氏さんのおかげですよ。仰っていた通りのかっこいい方ですね、藤崎先輩は」

「えへへ、そうでしょ?」


 由佳の言う通り、高坂妹はいい顔をしている。先日会った時のような憂いはなくなったようだ。

 それなら、俺の言葉にも少しは効果があったということだろうか。それなら本当によかった。なんだか俺も安心できる。


「さて、それでは私はそろそろ失礼しますね。お二人の逢瀬を邪魔する訳にはいきませんからね?」

「逢瀬という程のことではないんだがな……」

「静良ちゃん、またね?」

「ええ!」


 由佳の言葉に元気な返事を返しながら、高坂妹は駆けていった。

 その後姿を見ながら、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。


「ろーくんも、なんだかいい顔しているね?」

「そうだろうか?」

「うん。静良ちゃんが元気になって、嬉しい?」

「そうだな。嬉しいとは思っている……なんというか、いいものだな」


 そこで由佳は、俺がニヤついていることを指摘してきた。

 なんというか、少し恥ずかしい。だがこれは、仕方ないことだ。

 高坂妹が元気になって、本当に良かったと思う。俺は今、とても晴れやかな気持ちである。


「ろーくんはやっぱり面倒見がいいよね」

「面倒見がいい? そうだろうか?」

「うん。昔から困っている人を見ると放っておけなかったでしょう?」

「そういう訳でもないと思うが……」


 由佳の言葉に、俺は少し困惑していた。

 俺はそんなに殊勝な人間だっただろうか。正直よくわからない。


「ろーくんのその優しさは、きっとこれからも色々な人を助けていくだろうね」

「あまり自信はないんだが……」

「大丈夫、ろーくんは自然とそういう風にすると思うから」

「な、なんだか自信満々だな……」

「だって自信があるもん」


 由佳はそう言って、眩しい笑顔を俺に向けてきた。その笑顔に、俺も笑みを返す。

 正直、由佳が言っている通りの人生を歩んで行ける自信はない。

 しかし、そうなる可能性もあるかもしれない。由佳が信じてくれている。その事実だけで、俺はそう思えるのだった。



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最後までお読みいただきありがとうございます。

本作品はここでまた一区切りとさせていただきます。

次回の更新は未定です。機会があったらまた応援していただけると嬉しいです。

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