22.こういう時には大袈裟なくらいが丁度いい。
「……それで高坂、一体何があったんだ?」
「あ、やっぱり聞いちゃいます?」
少し考えた後、俺は直球で高坂妹に問いかけていた。
それに対して、彼女は少しおどけたような反応を返してくる。それはつまり、俺がどうして話しかけてきたかをわかっていたということなのだろう。
「聞かないでいてくれると、ありがたいなぁって思っていたんですけどね……」
「それなら、ずっとあんな顔をしているたつもりだったのか? 一人で悩んでいたって、結論なんてものは出ないぞ? これは経験則だ」
「敵いませんね。人生の先輩には……」
「一年しか違わないがな……」
高坂妹は、ただのお調子者という訳ではなさそうだ。それが言葉の節々から伝わってくる。
彼女の内面は、もしかしたら案外俺などと近しいのかもしれない。纏う雰囲気などから、俺はそんな風に思っていた。
「孝則先輩のことは、もう知っていますよね? 先輩がフラれたってこと……実はそのことで、少し落ち込んでいたんです」
「ほう?」
「先輩が振られたことは、私にとってはいいことなんです。まあ、藤崎先輩のことですからもうわかっているでしょうけど、私は孝則先輩が……でも、ですね。先輩がフラれて心が痛くなってしまうんです。どうして先輩の想いは、叶わなかったのかって」
高坂妹は、ゆっくりと自分の気持ちを口にしていた。
その表情は、今までの彼女とは違う憂いを帯びた表情だ。きっと、彼女の素はこちらなのだろう。
「臼井先輩のことは、前々から嫌いでした。だって、私にとっては恋敵ですからね。臼井先輩からしたら勝手だとは思われてしまうでしょうが……そんな臼井先輩に、私は今回も勝手な恨みを向けています。どうして先輩の想いに応えなかったのかって」
「なるほどな……」
恐らく高坂妹は、自己嫌悪に陥っていたのだろう。
臼井に対して、勝手な怒りを向ける自分。それが彼女は、許せないのだ。
そういう一面は、俺とは似ていないかもしれない。少なくとも俺は、高坂妹程殊勝な人間ではなかったから。
「高坂、俺が由佳と高校で再会したという話は知っているよな?」
「え? あ、はい。大体知ってします」
「久し振りに由佳の姿を見た時、俺は彼女に彼氏の一人くらいはいるのだろうと思っていた。俺の知っている由佳と、随分と見た目が変わっていたからな」
「ああ、それはそうですよね……」
俺の言葉に、高坂妹は苦笑いを浮かべていた。
ピンク色の髪の由佳を見た時、俺がどんな風に思ったのか。それをきっと、高坂はよく理解してくれているのだろう。
「その彼氏は実際にはいなかった訳だが、そう思い込んでいた俺は架空の彼氏に対して、どう思っていたと思う?」
「え? 羨ましいとか、ですか?」
「いや、死ねばいいと思っていた」
「え?」
高坂妹は、目を丸めて固まっていた。
そんな彼女の反応に、俺は少し出力を間違えたかとも考えた。
しかしきっと、このくらいの反応を返してもらえる方がいいのだろう。こういう時には、大袈裟なくらいが丁度いい。
「俺はそいつのことが許せなかった。由佳と付き合っているからな。その事実だけで、俺がそう思うには充分だった。でも同時にこうも思っていた。由佳のことを幸せにして欲しいと……」
「それは……」
「人間の心なんてものは、そんなに簡単なものではないのだろうさ。まあつまり、高坂が臼井に抱いている想いなんてものは、ありふれているものだ。そんなに気にする必要はない」
「藤崎先輩……」
俺の論に対して、高坂妹はぎこちない笑みを浮かべていた。
彼女が何を思ったのか、それは正直わからない。俺の助言が、少しでも彼女の心を軽くしたならいいのだが。
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