21.俺の来訪を嫌がってはいないような気がする。
「……高坂」
「……藤崎先輩?」
俺が声をかけると、高坂はゆっくりとこちらを向いた。
彼女は、少し驚いたような顔をしている。やはり、関係性が希薄な俺に話しかけられるのは驚くべきことだっただろうか。
「ここ、いいか?」
「え? ああ、はい。別に大丈夫ですよ。あ、でも藤崎先輩の方が駄目なんじゃないですか? 由佳先輩に知られたら、浮気になっちゃうかもしれませんよ。あ、もしかしてそのつもりだったりしますか?」
「連れがいるから大丈夫だ」
高坂妹は少し落ち込みながらも、この間会った時のようなお調子者の側面を見せていた。
なんとなくではあるが、俺の来訪を嫌がってはいないような気がする。そう判断して、俺はその場に留まることにした。
「ろーくん、お待たせ……えっと、彼女は高坂さんの妹でいいのかな?」
「わあ……江藤先輩じゃありませんか!」
「え? あ、えっと、僕は君とどこかで会ったことがあるかな?」
「いやいやいや、こちらが一方的に知っていたというだけです。江藤先輩は大スターですからねぇ。あ、申し遅れました。私は高坂静良と申します。静かで良いっていう名前ですが、まあ見ての通りそそっかしい性格で、両親にちょっと申し訳ないなって思っています」
「そ、そうなんだ……僕は、江藤晴臣だよ。よろしくね」
高坂妹の自己紹介に、江藤は少しだけ引いているような気がした。
というか、その自己紹介は誰にでもやるものだったのか。もしかして、持ちネタという奴なのだろうか。
「いや、藤崎先輩はすごい人なんですね。まさか、あの江藤先輩とお友達だなんて……」
「それに関しては、俺も正直よくわからないことだとは思っている。まあ、縁あってこうしてともに行動している訳だが……」
「いや、二人とも僕はそんな風に思われるような人間じゃないと思うんだけど……」
「まあ、大スター本人からすれば、そういう風に思えるものなんですかね……」
「そもそも、大スターとかではないんだけどね……」
短い間しか話していないはずだが、江藤は何故かどっと疲れているような気がする。
こいつがこんな風にたじたじになるのは珍しい。それ程高坂妹の論調がすごいということなのだろうか。
「でも、大丈夫なんですかね? 学校の大スターと一緒に食事したなんて知られてしまったら、クラスメイトの女子などから後ろ指を指されてしまいそうです」
「こいつは彼女持ちである訳だし、大丈夫なんじゃないか?」
「いや、別にスターが彼女持ちかどうかは、こういう時には関係ないものですよ。既婚者のイケメン俳優のファンだっているでしょう? それと同じです」
「なるほど……」
「いやろーくん、納得しないでよ……」
高坂妹は、思っていたよりも元気そうだった。
しかしそれは、空元気にも思えてしまう。
やはりここは、話を聞いた方がいいかもしれない。なんとなく話してくれるような気もするし。
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