20.俺はその集まりの一員という訳ではない。
修学旅行という一大イベントが終わって、俺達は普段通りの生活を送っていた。
二学期が始まってから、もう一か月近く経とうとしている。時が経つのは早いものだ。俺は、少しそんな感慨に耽っていた。
「はあ……」
「ろーくん、なんだか暗いね?」
そんなとある日の昼休み、俺は江藤とともに食堂に向かっていた。
俺の昼食は、基本的には由佳が作ってくれる弁当だ。その例に漏れず、今日も弁当を持っている。
いつもは、教室でそれを由佳と一緒にいただく。ただ今日彼女は、四条一派と一緒に昼食を取っているのだ。
「まあ、気持ちはわかるけどね……瀬川さんのこと、というよりも四条さん達全員のことが心配だっていうことかな?」
「そんな所だな……」
「それなら、ろーくんも行ったらよかったんじゃない? 皆誘っていた訳だし……」
今日由佳が四条一派と昼食を取ることになったのは、新見が皆に話したいことがあるからだそうだ。
恐らく、玉砕したということを話そうということなのだろう。その集まりに、実の所俺も由佳などから誘われてはいた。しかし俺は、それを断ったのだ。
「ともに行動することはあるが、俺は四条一派という訳ではないからな……」
「それは、どういうこと?」
「あそこの友人関係というものは、やはり特別なものであるだろう。そこに俺が入るのは、なんというか違う気がする」
「そうかな? 僕はそういう風には思わないけれど……」
四条一派というものは、中学時代から形成されているグループである。俺はそこに、由佳の幼馴染であったということから少しだけ関わることになった身だ。
全員のことを友人だとは思っているが、四条一派という括りの中に俺はいないと思っている。故に今回は、遠慮させてもらったのだ。
それはもしかしたら、いらぬ気遣いという奴なのかもしれない。ただなんとなく、皆からの誘いを受け入れられなかったのだ。
「まあでも、僕はそのおかげでろーくんとお昼を食べられる訳だし、細かいことは気にしないということにしようかな?」
「というか、お前の方は穂村先輩とかは大丈夫だったのか?」
「ああ、うん。美冬姉は忙しいからね。さてと、ろーくんは弁当なんだよね? 適当に席を取っていてくれるかな?」
「ああ、もちろんだ」
江藤の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
言われた通り、適当な席を取っておくことにしよう。そう思って辺りを見渡した俺は、見知った顔を見つけて動きを止める。
「高坂か……」
そこにいたのは、高坂妹だ。
食堂で一人俯いている彼女の姿に、俺は思わず頭を抱えてしまう。
「俺と高坂妹の繋がりは薄い……知り合い程度の関係じゃないか。放っておいた方がいいな。高坂妹も、俺なんかに話しかけられてもどうしていいかわからないだろう」
少し考えてから、俺はそんな結論を出していた。
彼女の話を聞こうなんて考えを、俺は否定する。それは余計なお世話という奴だ。俺がやるべきことではない。
そう思いながらも、俺は高坂妹から目が離せなかった。彼女の態度は、明らかに暗い。よくわからないが、落ち込んでいるといった感じだ。
「まあ、関係が薄いからこそ話せることもあるか。まったく、俺はいつからこんな風になってしまったのか……」
一度深呼吸をしてから、俺はゆっくりと歩いていく。
とにかく、高坂妹に一声かけてみるとしよう。知り合いなのだし、それくらいは許されるはずだ。その後どうするかは、彼女の反応を見て決めればいいだろう。
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