18.別に今日は明確な目的があるという訳ではない。
「さて、お四方、今日はどちらに行くつもりで?」
「ああ、まあ、適当にぶらぶらしようと思っていたが……」
「つまり、暇ってことだよね?」
「暇……そうなるのか?」
俺が高坂について少し考えていると、彼女と竜太がそのような会話を交わしていた。
竜太が言っている通り、別に今日は明確な目的があるという訳ではない。適当に気が向いた所に向かう。そういう予定だったのだ。
それが暇になるのかどうかは、微妙な所である。しかし、なんというか高坂には目的があるらしい。
「もしもよろしかったら、二人をつけない?」
「おおっ、それは名案じゃんか」
「いや翔真、名案じゃないだろう……」
高坂の提案に乗り気になった磯部に対して、竜太は頭を抱えていた。
それは当然の反応である。普通に考えて、デートを尾行されたくはないだろう。例え気になっても、新見や臼井を気遣ってその提案には乗らないべきだ。
「でも竜太だって気になるだろう?」
「気にならないとは言わないが、二人に悪いだろう……」
「ええ、江藤君はどう思う訳?」
「僕も竜太に同意だね。二人のことは放っておいた方がいいよ」
「藤崎君も?」
「ああ、俺も同じ意見だ」
俺達三人に突っぱねられて、磯部と高坂は顔を歪めていた。
なんというか、とても不満そうだ。
「かあっ、彼女持ち共はこれだから……」
「リア充って嫌だねぇ……」
「いや、俺に彼女はいないんだが……」
高坂と磯部は、どうやら相性がいいらしい。
先程から、何故か意見が一致している。同じお調子者といった所だろうか。
しかしこの二人なら、最終的に引き下がってくれるだろう。なんだかんだ言って友達思いだろうし、二人のデートに水を差すような真似はしないはずだ。
「待てよ?」
「藤崎君? どうかしたの?」
「いや、もしかして高坂には妹がいるか?」
「え? いるけど、それがどうかしたの?」
「その妹の名前は、静良か」
「あ、うん。そうだよ」
俺の質問に対して、高坂は呆気からんと答えてくれた。
そこで俺は、妙な納得を覚えていた。高坂は、あの高坂静良の姉だったのだ。
「静良と会ったの?」
「ああ、偶然会ったが……」
「へえ、由佳ちゃん、私の妹だって言っていなかった?」
「いや……」
「まあ、藤崎君私のことあんまり知らないもんね……」
「まあ、多分すっぽ抜けていたんだろう」
高坂妹については、新見との関係ばかり話していた。
その事情が色々と複雑だったため、由佳はクラスメイトの姉であるということを言い忘れてしまったのだろう。
しかし、事実がわかってみると二人はよく似ているように思える。外見や雰囲気、その性格からも姉妹が感じられる。
「静良……確か、孝則を慕っている後輩だったか?」
「ああ、あの子か……へえ、高坂さんの妹だったんだ」
「いや、俺達も知らなかったな……」
腑に落ちている俺の隣で、竜太と磯部はそのような会話を交わしていた。二人にとっても、これは初耳だったようだ。多分二人はそれ程、高坂妹とは関わっていないということなのだろう。まあ後輩である訳だし、そんなものか。
ちなみに、江藤は一人きょとんとしている。一人だけ会話についていけていないのは可哀そうだが、これに関してはもう仕方ない。
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