3.修学旅行にはそれ程いい思い出がない。

 学校に行くということは、こんなにも億劫だっただろうか。二学期が始まってから、俺はそんなことを思うようになっていた。

 一学期の時の俺は、学校に行くということを楽しみにさえ思っていたはずである。しかし夏休みを経た結果、そんな考えは消えてしまった。

 しかしそれは当然のことである。俺が学校に行くのが楽しみになったのは、由佳と会えるからだった。今は学校に行かなくても会えるので、前の俺に戻ったということなのだろう。


「はい。それじゃあ、皆のお楽しみ……修学旅行の話をしましょうか」


 そんなことを考えていると、担任の教師がそのようなことを言い出した。

 修学旅行、その言葉に俺は少し身構えてしまう。なんというか、その行事にはそれ程いい思い出がないのである。


「ろーくん、修学旅行の話だって?」

「あ、ああ……」


 しかし、俺のそんな強張りは由佳の言葉によって解れた。

 よく考えてみれば、今年の俺は由佳と一緒に修学旅行に行けるのだ。


「ろーくん、どうかしたの?」

「ああいや、その……今までの修学旅行のことを思い出していたんだ」

「今までの修学旅行?」

「あまりいい思い出がなかったのさ。特別親しい人もいなかったしな……」

「そっか……」


 由佳に聞かれて、俺は昔のことを説明してしまった。

 ただ、これは言うべきではなかったかもしれない。由佳の顔が、明らかに曇っているからだ。


「……でも、今回の修学旅行は楽しいものになるよ?」

「え?」

「私が、楽しいものにしてみせる」

「由佳……」


 由佳は、得意気な笑顔で俺に嬉しいことを言ってくれた。

 彼女の言葉は、いつも俺に勇気をくれる。おかげで修学旅行に対する不安なんてものは吹き飛んだ。


「由佳、ありがとう。だけど、そんなに気張る必要なんてないんだ。今回の修学旅行は、特に心配していなかったからな」

「え? そうなの?」

「ああ、由佳が一緒だからな」

「えへへ、それなら良かった」


 俺の自信に溢れた言葉を聞いたからか、由佳は輝くような笑みを浮かべてくれた。

 やはり、由佳にはこういう顔をしていて欲しい。俺は改めてそう思う。


「京香ちゃん、見てよ。すごいね……」

「いつもこんな感じなのかしら?」

「あっ……」

「うっ……」


 そこで俺達は、現在の状況に気付いた。

 小声かつ、修学旅行で周りが湧いているとはいえ、ここは教室の中である。お互いの隣の席の七海や臼井はしっかりと俺達の会話を聞いていたのだ。

 クラスメイトに、こういう会話を聞かれるのは恥ずかしい。俺も由佳も、顔を赤らめながら先生の話に耳を傾けるのだった。

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