2.この席順は、俺にとっては喜ばしいものだ。

 席替えが終わって、俺はゆっくりと席へ着いた。

 目の前には、目新しい景色が広がっている。いや、そうでもないかもしれない。席自体は、以前いた廊下側の一番前から一つ下がっただけである。

 ただ目の前にとある人物がいるだけで、景色の印象は変わるものだ。もっとも彼女にとって、この席順は喜ばしいものという訳ではないだろうが。


「近くの席で良かったとは思うんだけど……ここじゃあ、ろーくんの顔が見れないなぁ」

「顔が見られないということなら、俺も同じだな……まあ、後ろ頭が見られるだけでも幸せではあるが」

「そう言われると、なんだか少し恥ずかしいかも……」

「ああ、いや、そんなに見ないようにはするさ。黒板を見なければならないしな」


 俺の前の席にいるのは、由佳である。隣の席ではなかったが、前後の席という比較的いい席順となったのだ。

 最善の結果ではなかったが、それでも嬉しい結果である。やはり、信じるものは救われるということだろうか。


「……それにしても」

「あ、藤崎君。またか、みたいな顔をしていますね?」

「ああ、正直驚いているんだ」

「まあ、そうですよね。私もびっくりしています」


 俺の隣の席には、七海がいる。こうやって彼女の隣の席になるのは、実に三回目だ。前の一回は由佳と入れ替わったが、それでもくじ的には七海だったのである。


「二度あることは三度あるということでしょうか? どうやら私は、藤崎君と隣の席になる縁があるみたいですね」

「縁か……そういう意味なら、私は京香ちゃんと縁があるってことだね?」

「まあ、そういうことになるのかしらね……」


 由佳の隣の席にいるのは、臼井京香という人だ。

 正直、俺はその人のことをよく知らない。七海の隣の席――つまりは由佳の隣の席だった人らしいが、なんというかクールそうな人だ。


「……」

「……うん?」


 そこで俺は、その臼井から視線を向けられていることに気付いた。

 凛とした彼女の視線は、正直言って少し怖い。俺は、何か彼女にしただろうか。まったく覚えはないのだが。


「ああ、ごめんなさい。由佳さんから、藤崎君のことはよく聞いているから……」

「……なるほど、そういうことか」

「不思議ね……なんだか初めて話した気がしない」

「……前に同じようなことを言われたよ」


 臼井の謝罪によって、俺は思い出した。

 そういえば由佳は、俺のことを色々な人に誇張して伝えているのだと。


 最近は忘れていたが、こういう時にはいつも体がむず痒くなる。由佳の理想と現実のギャップが、とてもあるからだ。

 しかし、これはもう仕方ない。由佳から見ればそうだったのかもしれないし、ギャップをなくすためには俺が理想に近づいていくしかないのだろう。

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