30.本当に今日は良い日になりそうだ。

「由佳、誕生日おめでとう」

「えへへ、ありがとう。ろーくん」


 日付が変わってからすぐに、俺は由佳の誕生日を祝った。

 色々と考えたが、俺はこのタイミングで彼女を祝うことにした。誰よりも早く、彼女にその言葉を送りたかったのだ。


「これで今日から、一つお姉さんだね?」

「ああ、そういうことになるな。まあ、すぐに追いつくさ」

「本当にすぐだもんね、ろーくんの誕生日。それまで存分にお姉さんぶろうかな?」

「別に、いつでもお姉さんぶってもらって構わないんだけどな……」


 俺の誕生日は、九月九日である。由佳の誕生日から約一か月後なので、俺達の間に年齢差ができるのはその期間だけだ。

 ただそもそも、由佳の方が先に生まれたという事実は変わらない。彼女はずっと、俺よりもお姉さんなのだ。


「ろーくんは、お姉さんぶられるの好きなの?」

「まあ、嫌いではないさ」


 由佳の質問に、俺は少しだけクールに答えた。

 しかし実際の所、由佳にお姉さんぶられるのは好きだ。時々彼女に無性に甘えたくなる俺にとって、それは絶好のシチュエーションなのである。

 ただ、当然それを口に出すことはできない。普通に気持ち悪いからだ。


「さてと……由佳、これが俺からの誕生日プレゼントだ」

「あ、ありがとう。開けてもいいよね?」

「ああ、もちろんだ」


 そこで俺は、由佳に誕生日プレゼントを渡すことにした。

 色々と考えたが、もったいぶっても仕方ないし、やはりこのタイミングに渡すということでいいだろう。


「え? これって……リングネックレス?」

「ああ……その、四条とかにも相談して決めたんだ。気に入ってもらえるかはわからないが……」


 由佳は、箱の中からリングネックレスを取り出した。

 銀色に輝くそのネックレスは、四条と相談して選んだものだ。色々と考えた結果、それが一番いいと思ったのである。


「……二つ入ってるんだね?」

「由佳の誕生日に、どうかと思ったんだがな……」

「ううん、嬉しい。お揃いってことだよね?」


 俺が買ったそのネックレスは、二つセットのものだった。

 誕生日プレゼントとして、それが適切であるのかはわからない。ただやはり、せっかくアクセサリーをプレゼントするならお揃いがいいと思ってしまったのだ。


「そのリングには、数字が刻まれているだろう?」

「数字? あ、本当だ……」

「八桁のシリアルナンバーらしいんだが、それはそれぞれ違う番号であるらしい。つまり、ペアになっているネックレス以外、本当のお揃いはないそうだ」

「そっか……この数字のこれを持っているのは、私とろーくんだけなんだね?」


 俺の言葉に、由佳は笑顔を見せてくれた。

 喜んでくれていることがわかって安心する。四条の知恵を借りたとはいえ、やはり実際に本人の反応を見るまでは怖かったのだ。


「ろーくん、かけてくれる?」

「ああ、もちろんだ」


 俺は、由佳の首にネックレスをかけてあげる。

 シンプルなデザインのリングは、由佳によく似合っていると思う。もっとも、その評価は選んだ俺の贔屓目が入っているのかもしれないが。


「似合っているな……」

「ありがとう。ろーくん、かけてあげるね?」

「ああ、よろしく頼む……」


 由佳は、俺の首にゆっくりとネックレスをかけてくれた。

 俺と由佳の胸にある二つのリングは、他に存在していないリングだ。

 それがなんというか、すごく嬉しかった。お揃いというのは、本当にいいものだと心から思う。


「えへへ、誕生日始まってすぐにこんなに幸せになっちゃっていいのかな……」

「構わないさ。今日は由佳が存分に幸せになる日だ」

「……それじゃあ、ろーくん今日一日よろしくね?」

「ああ、なんでも言ってくれ」


 俺と由佳はそこで笑い合った。

 本当に、今日は良い日になりそうだ。由佳にとってだけでなく俺にとっても。

 なぜなら俺の幸せは、由佳が笑顔でいてくれることだからである。そのためになら、俺はなんだってできるのだ。



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最後までお読みいただきありがとうございます。

夏休み編は、一応ここで終わりとさせていただきます。

次回の更新は未定ですが、九月頃に二学期編をお届けできればと思っています。

もしもよろしかったら、これからも本作品を応援していただけると嬉しいです。

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