27.二人が進展するまではまだまだ時間がかかりそうだ。
「随分と早かったな?」
「まあ、待たせるのも悪いからな」
事前に待ち合わせていた場所に行くと、既に四条一派の面々がいた。やはり場所取りをしてくれていたようだ。
「しかし、何かしらの成果を得たみたいだな?」
「うん? ああ、ぬいぐるみのことか?」
「ああ……射的か?」
由佳が四条達と話しているのを見ながら、俺は竜太に問いかけられた。
竜太の顔は少し険しい。それがどういう意味なのかはなんとなく理解できた。
恐らく竜太も、由佳の腕は知っているのだろう。つまり射的の屋台で何が起こったのかを察したのだ。
「ああ、射的だとも。あんな由佳は初めて見た」
「意外な特技というかなんというか、俺も最初は驚いたよ」
やはり竜太も、由佳の射的の腕には驚いたようだった。
由佳のあのような一面は、他で見たことがない。誰もが普段とのギャップで、驚くということだろうか。
「でも俺は最終的にはかっこいいと思うようになった。凛々しい由佳も美しい」
「なんだ、惚気話か?」
「まあ、そうともいえるか……」
「ふふ、九郎は本当に由佳のことが好きなんだな」
「それはそうだ」
俺の言葉に、竜太は笑ってくれていた。
今まで接してきたためわかっているが、こいつは人の幸福を心から喜べる奴だ。故に俺のことを祝福してくれていることは間違いない。
しかしながら俺には気になっていることがあった。それは、こいつ自身の幸福のことだ。
「それで、そっちはどうだったんだ?」
「うん? まあ、いつも通りだったが」
「進展はなかったのか?」
「進展……ああ、そういうことか」
俺の質問に、竜太は自嘲気味に笑う。
この話をする時のこいつは、いつもこんな感じだ。一番こいつらしくない状態である。それだけ、悩んでいるということなのだろうが。
「進展かどうかはわからないが、由佳がいないからか舞に話しかけられる回数は多かった気もする。やはりこういう時は、由佳と接することが多かったからな」
「なるほど、それなら一歩前進といえるのかもしれないな」
「さて、どうなんだろうな。それに関しては、俺にもよくわからん」
竜太は本当に 、わからないというような顔をしていた。
そこで俺は、四条の方に目を向ける。彼女は、いつも通り由佳と楽しそうに話している。
そんな彼女が何を思っているのかは、やはりまったくわからない。
「まあ、元々長い戦いになることはわかっていた。というか、これまでだって長い戦いだったんだ。気長にやるさ」
「……そうか」
竜太と四条が進展するまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。そんなことを思いながら、俺は花火までの時間を過ごすのだった。
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