26.事実として今日の俺はかっこよくはなかった。
由佳にもらったキーホルダーを、俺はとりあえず自宅の鍵につけてみた。
可愛らしいくまのデザインのキーホルダーは、俺に似合っているかどうかは微妙な所である。
ただこれは、俺が先程なんとか当てたぬいぐるみとよく見ると同じデザインだ。つまりこれは、一種のお揃いということになるのだろうか。
「ろーくん、ありがとうね。このぬいぐるみ、取ってくれて」
「いや、それは本当に由佳の指導のおかげだ。あれがなかったら、きっと俺は当てられていなかっただろうさ」
「そうかな?」
由佳は、胸に抱いたくまのぬいぐるみを愛おしそうに撫でる。
色々と気を遣って選んでくれたのかと思ったが、案外由佳は欲しかったものを選んだのかもしれない。その様子を見て、俺はそんなことを思っていた。
「しかし、由佳は射的が上手いんだな?」
「え? そうかな?」
「いや、そのなんというか……銃を扱っている時の由佳はすごくかっこよかった」
「かっこよかった……」
とりあえず俺は、由佳の射的の腕を褒めることにした。
初めは驚いたが、後から思い出してみるとあの時の由佳はとても凛々しくてかっこよかった。今まであまり見たことがない一面だったし、俺の心には強くあの姿が焼き付いているようだ。
ただ、これが褒めた言葉になるかどうかは微妙かもしれない。由佳もちょっと微妙な顔をしているし、言わない方が良かっただろうか。
「えへへ、私かっこよかったんだ……」
しかしその直後、由佳は緩い笑みを浮かべていた。
あまり言われたことがない褒め言葉を噛み砕くのに時間がかかっていたのだろう。由佳はすごく喜んでくれている。
「でも、ろーくんの方がかっこいいよ?」
「え? あ、ああ……いや、俺はそんなにかっこよくないさ」
「そんなことないのに」
「少なくともさっきの俺にその言葉をかけてもらう資格はないさ。由佳の指示に従って撃っただけしな。そう言ってもらえるのはまた今度になるだろう」
「来年の夏ってこと?」
「ああ、まあ来年上手くできるかは正直わからないが……」
由佳にかっこいいと言ってもらえるのは嬉しい。だが、それを言ってもらえるのは本当にかっこいい姿を見せられた時であるべきだろう。
事実として、今日の俺はかっこよくはなかった。その結果は重く受け止めて、来年などに活かしていくとしよう。
「ろーくんは、いつだってかっこいいけどね……」
「うん? 何か言ったか?」
「ううん、なんでもないよ。というか、そろそろ花火の時間だよ」
「ああ、もうそんな時間か……」
屋台を巡っている内に、結構な時間が経っていたらしい。
もうすぐ花火の時間だ。竜太達が場所取りをしてくれるとは言っていたが、できれば早めに行っておきたい所である。
こうして俺達は、花火が見やすい場所に向かうのだった。
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