24.俺にとってはかなり久し振りの祭りだ。

「ろーくん、覚えてる? このお祭りに昔来たこと」

「ああ、もちろん覚えているとも。あの時は、家族皆で来ていたな」

「うん。懐かしいなぁ……」


 この祭りは、この辺りでもそれなりに有名な祭りだ。故に俺も由佳も、足を運んだことはある。

 去年は足を運んでいなかったため、俺にとってはかなり久し振りの祭りだ。ただ年数が経っていても、祭りの光景というのはそれ程変わっていないような気もする。


「屋台が何があったかな……」

「色々あるよ。食べ物でいえば、焼きそばとかたこ焼きとかうどんとかかな?」

「フランクフルトなんかもあるし、ポテトもあるか……」

「あ、その辺もおいしそうだね」


 俺は由佳とともに、周囲の屋台を見渡していた。

 本当に色々なものがある。食べ物だけではなく、射的などといった遊びも豊富だ。


「とりあえず腹ごしらえするか?」

「うん、そうだね。結構お腹空いてるし。ろーくんは何が食べたい?」

「そうだな……」


 由佳の質問に、俺は少し考えることになった。こういう時に食べる物として、一番いいものはなんなのだろうかと。

 そうやって考えると、とある食べ物が思い浮かんだ。それが正解かはわからないが、とりあえず提案してみることにしよう。


「たこ焼きとかはどうだろうか? 二人でシェアできるし、丁度いいんじゃないか?」

「あ、それはいいね。せっかくなら色々な物食べたいし」

「ああ、フライドポテトとかも良さそうだ」

「うん。それじゃあ、その辺りにしよっか」


 俺の提案に、由佳は笑顔を見せてくれた。

 気を遣ってくれているだけとも考えられるが、これはもしかしたら中々いい提案ができたかもしれない。


「というか考えてみれば、たこ焼きは長らく食べていない気がするな……」

「あ、そうなの?」

「ああ、家で出ることもないからな」

「たこ焼き機とかない感じ?」

「由佳の家にはあるのか?」

「あるよ? 今度一緒にタコパしよっか」

「タコパ……」


 由佳の言葉に、俺は少しだけ苦笑いする。

 タコパなんて、俺には縁がないものであるとずっと思っていた。むしろ、意味がわからない行為だと考えていたくらいだ。

 しかし由佳に提案されて、俺はわくわくしてしまっている。我ながら、見事な手の平返しだ。


「あ、おじさん、たこ焼き一つお願いします」

「あいよ」


 そんなことを話している内に、たこ焼きの列は終わり俺達の番になっていた。

 由佳が明るく注文をすると、屋台のおじさんは鉄板からたこ焼きを素早く出して、船に乗せていく。


「お嬢ちゃんは可愛いから、おまけしといてあげるよ」

「あ、ありがとうございます」


 屋台のおじさんは、由佳を褒め称えてたこ焼きを通常よりも多く入れてくれた。

 彼氏としては、なんだか少し複雑である。由佳が可愛いのは事実なのだが、それをこんな形で言われると少しもやもやしてしまう。

 我ながら器が狭いと思うが、これはもう仕方ない。そう思って、俺は苦笑いを浮かべてしまう。


「ろーくん、行こう?」

「ああ」


 そんな俺の腕に由佳は抱き着き、引っ張ってくる。

 もしかしたら俺の卑しい気持ちを見抜かれたのだろうか。そうだとしたら、少し恥ずかしい。


「あそこに座ろっか」

「そうだな……」


 俺と由佳は、屋台の近くにあった机を挟んで椅子に座った。

 すると由佳は、すぐにたこ焼きに爪楊枝を指してそれを俺に向けてくる。


「あーん」

「あ、あーん……」

「ふふっ……やっぱり、シェアできるものして正解だね?」

「あふっ……まあ、そうかもしれないな」


 焼きたてのたこ焼きは、少し熱かった。しかしそれでも、幸せな味がする。

 それはきっと、目の前にいる最愛の人が笑顔だからなのだろう。きっとそれは、何よりのスパイスになるのだ。


「それじゃあ、次は俺からか……」

「うん。あーん……」

「熱いから気を付けるんだぞ?」

「うん……あ、ほんとだ。熱々」


 そんな風に会話をしながら、俺達はしばらくたこ焼きを食べたのだった。

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