23.この二人に関しては恋愛関係の噂を聞いたことがない。

 俺と由佳は、いつもの四条一派と集合していた。

 四条に竜太、月宮に水原、それに磯部と新見も含めて四条一派といわれている者達が大集合である。


「へえ、これが例の浴衣?」

「わあっ、すごく綺麗……」

「ふふ、由佳、よく似合ってるね」

「えへへ、ありがとう」


 女子達は、まず由佳の浴衣姿を褒めて讃えていた。

 ちなみに由佳以外に、浴衣を着ている者はいない。周囲にはちらほらといるのだが、四条一派は普段通りの格好だ。


「九郎のお祖母ちゃんからもらった浴衣か、なんだかすごいな……」

「いや、本当だよな。なんか俺も泣いちゃうそう」

「翔、言っておくが藤崎のお祖母ちゃんは健在だからな?」

「え? ああ、いやもちろんわかってるって。それでもぐっとくるだろ? だって、なんかいいじゃん?」

「まあ、なんとなくわからない訳ではないが……」


 男子達も、由佳の浴衣姿には感心していた。やはり、俺のお祖母ちゃんから受け継がれたものという部分が、皆にとっては衝撃的らしい。

 しかしそれにしても、磯部の反応は大き過ぎるような気がする。もしかして、お祖母ちゃんっ子とかなのだろうか。


「九郎にとっても、嬉しいことだよな? まあ、前々からわかっていたことではあるが、本格的に由佳がお嫁さんになってくれると表明している訳だし」

「まあ、それはそうだな。もちろん、嬉しい限りだ」

「羨ましいねぇ、藤崎君。ああ、俺にも何か出会いがないかなぁ……」

「お前なぁ……」


 磯部の言葉に対して、新見は呆れたような顔をしていた。

 しかしそれに対して、磯部はかなり不満そうだ。


「いやいや、これは重要な問題だって。大体さ、俺達の中で彼女いるのは藤崎君、だけじゃんか? そんな灰色の青春でいいのかよ?」

「え? いや、そんなこと言われても……」

「今年の夏は、美人なお姉さんと一夏の思い出を作りたいって思っているけど、なんかこのままだとそれもなく終わりそうだし……どうすればいいんだか」


 磯部の勢いに、新見は押されていた。

 この二人と俺はそこまで関わっている訳ではないが、これは珍しい光景であるような気がする。基本的には、新見が勝っていたはずなのだが、今回は違うようだ。


「藤崎君、いや師匠、一体どうやったら彼女はできるんですか?」

「え?」

「こういう時には、先駆者に聞くのが一番ってね。よし、それじゃあまず出会いの話から聞かせてもらえますか? 彼女さんと出会ったのは?」

「えっと……赤ちゃんの時」

「わおっ、もう絶対無理じゃん」


 急に振られた質問だったが、俺はとりあえず素直な回答を返した。それに対して、磯部はオーバーリアクションを返してくる。

 どうやら俺と由佳の話は、あまり参考にならないらしい。それを悟ったのか、磯部は他二人に向き直る。


「二人とも、藤崎君みたいなのは無理だ。幼馴染なんて、俺にはいない」

「孝則がいるだろう?」

「いやいや竜太君、俺が欲しいのはこんなむさくるしい奴じゃないんだって、大体小学生からの付き合いだから、幼馴染って言っていいの?」

「心外だな。それを言うなら、俺もお前みたいなうるさい奴よりも可愛い女の子とお近づきになりたかったさ」


 磯部と新見は、そんな風にじゃれ合っていた。

 実際の所、この二人に関しては恋愛関係の噂を聞いたことがない。

 竜太の場合は、四条と付き合っている噂が流れていたのだが、本当に女子との縁はないのだろうか。


「てか、則ちゃんには仲良い後輩がいたじゃんか。中学の時に」

「うん? いや、それは部活の繋がりだって」

「繋がりがあるだけいいじゃんか。俺なんて、女子との縁なんて何もないのにさ」


 どうやら、新見の方には割と縁があるようだ。

 磯部には大変失礼になるかもしれないが、それはなんとなくわかってしまう。女子受けが良さそうなのは、明らかに新見の方だ。


「まあ、九郎。こっちはこっちで楽しくやってるからさ。由佳と一緒に楽しんでくるといいさ」

「あ、ああ、まあそうさせてもらうつもりだが……」

「ちなみに花火は二十時からの予定らしい。多少前後するかもしれないが、まあ場所取りはこっちで早めにしておくつもりだ。九郎達はゆっくりしてくれ」

「悪いな……」

「いや、気にする必要はないさ。俺達皆、二人にはこの祭りを楽しんで欲しいと思っているからな……」

「……ありがとう」


 これから俺は、由佳と一緒にこの祭りを巡る。

 それは皆の気遣いによって、成り立つものだ。故に皆には、感謝の気持ちでいっぱいである。それをいつか、なんらかの形で返すことができたらいいのだが。

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