20.夏の定番ともいえる番組を俺達は見ている。

「きゃあっ!」


 俺の隣にいる由佳は大きな声をあげながら、俺の腕に抱き着いてきた。

 彼女の胸にある柔らかいものが当たり、その感触に俺は少し動揺する。

 だがそのおかげで、俺の恐怖は随分と薄らいだ。幸せな感触の方に、意識が向いたのである。


「び、びっくりしたぁ……」

「あ、ああ……」


 俺と由佳は、今日もテレビを見ていた。

 見ている番組は、心霊映像などを取り扱うものだ。

 夏の定番ともいえる番組を、俺達は見ている。チャンネルを回している内に目に留まり、つい見続けてしまっているのだ。


「あ、ごめんね、ろーくん。急に抱き着いちゃって」

「ああいや、別に謝らなくてもいい……」

「えっと、このままでもいい?」

「もちろん、いいが……」

「えへへ、ありがとう。やっぱりこうやって抱き着いている方が安心できるなぁ」


 由佳は、俺の腕にしっかりと抱き着いていた。

 当然俺の腕には引き続き、彼女の胸が当たっている。やはり俺の意識は、そちらに向いてしまっている。こうやって腕を抱かれることは今までも何回かあったが、いつまで経ってもこの幸せと動揺が薄れることはない。


「ひゃあっ!」

「おおっ……」


 そこで再び、由佳は大きな声をあげた。それはテレビの中で、恐怖映像が流れたからである。

 そちらに意識を向けていなかった俺は、むしろ由佳の声に驚いた。その直後の幸せな感触の変遷にも、やはり俺は動揺してしまっている。


「やっぱり怖いね……」

「ああ、確かにそうだな……ただなんというか、びっくり系だ」

「あ、そうそう。急にくるよね?」


 腕に伝わる感触に、俺は幾分か余裕を持ってテレビを見られていた。

 よく考えてみると、心霊映像はどう考えても作り物である。それが何故怖いかというと、急に何かが起こるからだろう。

 それは確かに怖いと思うが、果たして心霊的な怖さなのだろうか。少々疑問である。


「あ、今度は心霊写真のコーナーだね?」

「ああ、こっちは急にくることはないから安心だな」

「あれ? どこだろう?」

「あーあ……右端か?」


 あれこれ話している内に、テレビのコーナーは移り変わっていた。

 画面には女性の写真が映っているのだが、そのどこかに霊がいるようだ。


「え? これ?」

「顔……まあ、顔に見えないこともないか」

「なんか微妙だね……」

「ああ……」


 テレビはすぐに答えを教えてくれた。しかし、それはなんともしっくりこない答えである。

 そして俺は、そこで気付いた。俺の腕を抱く由佳の力が弱まっていることに。

 どうやらこちらは、盛り上がりにかけるようだ。なんというか、色々な意味でびっくり系の方が良かったかもしれない。


「わっ、これは……」

「おおっ、結構怖いな……」


 しかし俺と由佳は、すぐにまたびっくりすることになった。それなりに怖い写真が出てきたのだ。

 これも作り物の可能性はあるが、それでも怖いと思ってしまう。そういう人間の本能に訴えかけてくるものがあるのだ。

 そんなこんなで、俺達はしばらく心霊番組を楽しんだのだった。

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