19.彼女に釣り合うためには俺も努力をする必要がある。

「ふぅ……」

「んっ……」


 俺と由佳は、ゆっくりと口を離した。

 彼女とキスをする時間は、俺にとって至福の時間だ。その柔らかい唇と触れ合っていると、様々な幸福が溢れ出してくる。


「……ろーくん、ちょっと唇乾燥している?」

「え?」


 しかし俺は次の瞬間、腹を殴られたような感覚に陥った。

 由佳からの指摘、それはなんというか、すごく心にきたのだ。

 確かに言われてみると、最近は唇が乾燥していたような気もする。今は彼女のおかげで潤っているが、事前に何か対策を講じておくべきだったかもしれない。


「あ、ろーくん。別に嫌って訳ではないからね」

「え? あっむっ……」


 そんな俺に、由佳は再びゆっくりとキスをした。

 それによって、俺は理解する。彼女が言わんとしていることが、俺への抗議ではないということを。


「ろーくんが気になったりしてないかなって思って……」

「えっと、そうだな……まあ、言われてみるとすごく気になってくる。リップクリームとか、つけた方がいいだろうか?」

「あ、そうそう、それだよ、ろーくん」


 俺の言葉に、由佳は近くにあるチューブ状の何かを手に取った。

 話の流れからして、それはリップクリームだろうか。


「私のだけど、いいかな?」

「あ、ああ、もちろん……」

「それじゃあ、ろーくん塗ってあげるね?」


 由佳はそう言いながらもリップクリームを自分の唇につけていた。

 それを見て疑問を抱いていた俺だったが、それはすぐに解消されることになる。由佳がゆっくりと、俺に近づいてきたからだ。


「……どうかな?」

「ああ、なんというかとても潤ったような気がする……」


 由佳とキスをしてから、俺は結構混乱していた。

 正直、リップクリームがどんな感じかなんてよくわからない。俺の頭の中は、先程の淫靡な行為でいっぱいだ。


「ろ、ろーくんもやっぱりリップクリームとかした方がいいかもね」

「あ、ああ、そうだな」

「あ、せっかくだから化粧水とかも試してみる?」

「む、それは……」


 そこで由佳は、周りにある美容の道具を俺を見せてくれた。

 こうして改めて見てみると、色々なものがある。何が何やら、俺にはさっぱりわからない。


「やっぱり、男でもそういうものはした方がいいのか?」

「それはそうなんじゃないかな? あ、でもろーくんは今のままでもかっこいいよ?」

「……まあ、せっかくだから使わせてもらおうか」


 少し考えた後、俺は由佳の提案に乗ってみることにした。

 由佳はとても可愛くてきれいだ。そんな彼女に釣り合うためには、俺も努力をする必要があるだろう。

 素材の良さという点に関してはどうにもならないが、努力することによって俺も少しは良くなれるかもしれない。そうなりたいと思っている。だから、色々と教えてもらうとしよう。


「由佳、色々と教えてもらえるか?」

「うん、もちろん」


 俺の言葉に、由佳は力強く頷いてくれた。

 こうして俺は、しばらく由佳からレクチャーを受けるのだった。

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