18.俺は既にその実例を知っている。
夏休みの間、俺と由佳はお互いの家を行き来していた。
お互いに予定がない場合は、どちらかの家に泊まる。そんな生活を送っているのだ。
という訳で、俺は今日も由佳の部屋にいる。彼女と一緒に一夜を過ごすのだ。
「わあ、すごいね……」
「ああ……」
俺は、自分にもたれかかっている由佳の言葉に生返事をした。
現在、俺達はテレビを見ている。特に何が見たいということもなかったので、適当な番組を視聴中だ。
その番組は、女の子のアイドルがすっぴんを見せるというような企画をやっている。それを見ながら、由佳は先程のようなことを言ったのだ。
「ほとんど変わってないや。やっぱりすっぴんでも可愛いんだね……」
「まあ、確かに同じか……」
「ろーくん? なんだか、反応が悪くない?」
「え? ああ……」
由佳は、アイドルの変わらぬ可愛さに驚いていた。
彼女の言う通り、テレビの中のアイドルはメイク前と後でまったく変わっていない。確かに、それは驚くべきことであるだろう。例え、テレビ的な誇張があったとしても。
しかしながら、俺は実の所そんなに驚くことができなかった。なぜなら俺の目の前に、すっぴんでも変わらない可愛さの彼女がいるからだ。
「どうかしたの?」
「テレビの中のアイドルは、確かにすごいと思う。だが俺は由佳の方が可愛いと思っている。メイクした後も、メイクする前も」
「んっと……」
俺の言葉に、由佳は少し照れていた。その顔が、またとても可愛らしい。
こうやって一緒に過ごす都合上、俺は由佳のすっぴんを見ている。その変わらぬ可愛さに、いつも驚かされたものだ。
故に、テレビの中のアイドルに驚く理由がない。俺は既に、その実例を知っているのだから。
「ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいな」
「そうか。それならよかった」
「でも改めて考えてみると、少し恥ずかしいかな……」
「そういうものか……」
由佳のすっぴんを初めて見たのは、多分最初にこの家に泊まった時だろう。
その時彼女は、どう思っていたのだろうか。もしかしたら、見せることへの葛藤があったのかもしれない。今の彼女の表情からは、それが読み取れる。
「最初に見せる時は、結構迷ったんだよ? 最終的には、見せるしかないって思ったけど」
「見せるしかない?」
「だって、ろーくんとはこういう関係になりたいって思っていたから。こういう関係になる以上、最終的には絶対に見せないと駄目でしょう? だから、勇気を出すことにしたんだ」
「なるほど……」
どうやら由佳は、かなり先を見据えて俺にすっぴんを見せてくれたようだ。
それが俺は、とても嬉しかった。彼女の俺に対する思いが、よくわかったのだ。
「でもやっぱり、ろーくんには一番可愛い私を見てもらいたいって思っているけど……」
「由佳はいつだって可愛いさ。すっぴんでもメイクしていても、違う可愛さがあると俺は思っている。だから、顔をよく見せてくれ」
「ろ、ろーくん、なんだか積極的だね……」
「今無性に由佳の顔が見たいんだ」
「今そう言われると、なんだかすごく恥ずかしい……」
由佳は、かなり恥ずかしそうにしながらも俺に顔を見せてくれた。
俺はそんな彼女に、ゆっくりと顔を近づける。そして俺達は口づけを交わすのだった。
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