17.彼女の良い所はたくさんある。

「しかしせっかくだ。ここは何か話をしてみないか?」

「別にいいわよ。でも、何の話をするつもり? あんたと私で話せることなんて、そんなにないと思うけど……」

「ふむ……」


 せっかくなので持ち掛けてみたが、確かに四条の言う通り、俺と彼女で話せることというのはそう多くない。

 何せ、共通の話題がないのだ。俺達の趣味嗜好というのは、恐らくかなり違う。

 ただ一つだけ、思いついた。俺と四条の間に、ただ一つだけ話せる共通の話題があるのだ。


「由佳のこととか、どうか?」

「はあ?」


 俺の言葉に、四条は大きく口を開けた。

 それに俺は、少し驚いてしまう。ただすぐに、彼女が怒っていないということがわかった。


「いいわね」


 そう言って四条は、笑みを浮かべていた。なんというか、今にも話したそうな顔をしている。

 やはり四条は由佳のこととなると人が変わる。彼女は本当に、由佳のことが好きなのだろう。


「何について話すの?」

「何についてか……良い所とか?」

「たくさんあるわよね?」

「ああ、それはもちろんだ」


 四条は、とても生き生きとしていた。本人がいないからだろうか。いつもより、かなり調子が良い気がする。

 だが、それは同じかもしれない。由佳の良い所は本人の前でもある程度言っているが、やはり本人に言うのと人に言うのは違うし。


「例えば、健気な所とかどうかしらね?」

「健気?」

「あんたのことを、ずっと思っていたでしょう? そういう所、本当にすごいって思うのよね。一途で健気で、本当に可愛いってそう思うわ」


 俺の質問に対して、四条はとても楽しそうに、そしてどこか昔を懐かしむようにそう言ってきた。

 それでなんとなくわかった。四条はきっと、由佳のそんな一面に惹かれたのだと。

 由佳がそんな風に思っていてくれたのは、俺にとって本当にありがたい話である。そこに関して、俺には感謝の気持ちしかない。


「初めてあんたの話を聞いた時は、よくわからなかったけど……でも、あの子があんたをずっと思っていられたのは、あんたがあんただったからなんでしょうね」

「む? それは一体、どういう意味だ?」

「変わらないって思っていたのよ、由佳は。あんたは絶対、ろーくんのままだって、きっと由佳は幼いながらもそう確信していたんだわ」

「俺は、かなり変わったと思うが……」

「根本的な部分は、変わっていないのよ。まあ、これは感覚の問題だし、そもそも私の予測でしかないから、はっきりとしたことはいえないけど」


 四条は、どこか遠くを見つめていた。

 そこで俺は、少しだけ思った。四条にとっても、由佳はきっと太陽なのだと。


「由佳はどこまでも眩しいな……」

「……そうね。確かに、そうだわ」


 俺の呟きに、四条は静かに頷いてくれた。

 ここで四条と二人で話せて、本当によかったと思う。今回の話し合いによって、彼女とより分かり合えたような気がする。

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