4.俺はどちらかというと地味な方が好きなのかもしれない。

「そういえばさ、由佳って最近すごく地味になったよね?」

「へ?」


 買い物を終えた俺達は、喫茶店でくつろいでいた。

 そんな中月宮が切り出した話に、由佳は驚いたような表情をする。確かになんというか、突拍子もない話だ。


「そ、そうかな?」

「そうだよ。涼音もそう思うよね?」

「あーあ、まあ、確かにそうかもね」


 月宮の言葉に、水原も同意した。

 それでも俺には、少しピンとこない。確かに髪の色は変わったが、逆に言えば大きく変わったのは、それくらいなのではないだろうか。


「ぶっちゃけさ、滅茶苦茶彼氏の趣味に染まってるよね?」

「え?」


 月宮の発言に、俺は思わず声をあげてしまった。

 すると彼女は、呆れたというような表情をする。俺の反応は、そんなにおかしかっただろうか。


「ろーくんはさ。清楚な感じの方が好みでしょ?」

「あ、いえ、それは……まあ、そうか」

「ピンク髪より黒髪の方が好きなんでしょ?」

「確かにそう言ったが、別に由佳にピンクが似合わないと思っている訳ではないぞ」

「でもさ。全体的な感じでいえば、地味な方がいいんじゃない? 小物とかはさ、ピンク色とかでもいいのかもしれないけど」

「……」


 続く月宮からの追及に、俺は何も言えなくなってしまった。

 正直今までそんなことは考えていなかったが、言われてみればそうかもしれない。

 基本的に、由佳にはどんな服でも似合うとは思っている。だが、個人的な子のみでいえば、確かに派手目よりも地味目の方が好きかもしれない。


「それで由佳、どうなの実際? 意識とかしてるの?」

「そ、それはその……だって、ろーくんには可愛いって思われたいし」

「いや、別にそれが駄目とか言ってる訳じゃないからね」


 俺は特に意識していなかったが、由佳の方は既に俺の好みに合わせていたようである。

 それを聞かされると、なんだか少し微妙な気持ちになってしまった。別に俺は由佳の好みに合わせたりはしていないし。


「……ゆ、由佳はちなみにどういう服装が好みとかあるのか?」

「え? あ、えっと……」

「ああ、それは多分、そういう感じでいいと思う。今のろーくんは、絶対由佳好みだから」

「そ、そうなのか……」


 俺の心配に対して、月宮はとてもはっきりとした回答を返してくれた。

 基本的に、俺の服というのは母親に見立ててもらったものだ。由佳と出かけるにあたって、どういう服にすればいいか聞いた結果、現在の俺になっている。

 つまり俺の母さんは、由佳の好みをわかっている訳だ。やはり女性同士、通じ合うものがあるのだろうか。


「まあ、それでもやっぱり由佳の印象が変わったのは、黒髪になったのが大きいんじゃない?」

「それはそうだね。やっぱり目立ってたし」


 そこで今まで特に口を挟まなかった水原が指摘してきた。

 彼女の言う通り、由佳の髪色の変化は当然大きな変化だろう。それだけ印象が、九十度変わっているといってもおかしくない程のものだ。


「あ、そういえば千夜はさ、髪の毛他の色に染めたりしないの?」

「え?」

「だって、千夜が茶髪に赤色のメッシュなのは、私や舞と被らないためだったでしょ?」

「あーあ、それはまあ、ねぇ」


 由佳の指摘は、俺にとっては少し驚くべきものであった。

 月宮のその髪の装飾が、気を遣った結果のものとは思っていなかったからだ。


「でも、今更私がピンク色とかにしても二番煎じって感じがするし……」

「うっ、ごめんね」

「いや、由佳を責めてる訳じゃないよ。それにさ、別に私は信念があるって訳でもないし、その辺は今のままでいいかなって思ってるんだよね」


 月宮は、自分の髪を弄りながらそんなことを言った。

 髪を染める信念なんて、大袈裟な言い方であるような気もする。

 ただ、確かに由佳や四条にはその色にしたいという強い気持ちがあったかもしれない。由佳は俺のために、四条は竜太のために。そういう部分を、月宮は気にしているのだろうか。


「それに、今は涼音とお揃いだしね。まあ、私に合わせてくれてる訳だけど」

「そういう意味では私が一番こだわりないかな」

「涼音は、あんまりオシャレに興味ないもんね……その理由は、最近まで知らなかったけど」


 水原の言葉に、月宮は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 それはきっと、つい最近水原の興味がどこに向いているかを知れたからなのだろう。

 しかし俺からしてみれば、水原だって充分オシャレであるような気がする。女子から見れば、そうではないのだろうか。


「……」


 そんなことを考えながら、俺はジュースを口に運んだ。

 段々と、会話にはついていけなくなっている。やはり女子三人と出かけるというのは、俺にはまだまだハードルが高かっただろうか。

 とはいえ、別にそんなに気まずいという訳ではない。こうやって三人の会話に耳を傾ける時間も、悪くはないものだ。

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