第129話 俺はこれからも幼馴染と時を重ねていく。

 由佳と一緒にお風呂に入る。それはこれまで何度か体験していたことだ。

 ただ今回は、いつもとは大きく異なる点がある。お互いに一糸纏わぬ姿であるということだ。

 その違いを受け入れられるような関係性になった訳ではあるが、それでもやはり緊張はしている。同時に幸せでもあるが。


「ふう……」


 俺にもたれかかっている由佳は、かなりリラックスしているような気がする。それだけ、俺に心を許してくれているということだろう。

 それは、とても嬉しいことだった。由佳にとって、安心できる存在であり続けたい。そんな想いが、胸に溢れてくる。


「……ちょっと気が早いけど、もうすぐ夏休みだね」

「……ああ、そうだな」

「その前に期末テストもある訳だけど、それでも楽しみ」

「俺も楽しみだ」


 夏休みは、由佳と一緒に存分に遊べるはずだ。故に、とても楽しみである。

 早く休みが来て欲しい。それは以前までも思っていたことではあるが、今はあの頃とは大きく違う。

 学校に行かなくてもよいということへの楽しみから、由佳と一緒に過ごせるということへの楽しみに変わった。その変化は、とてもいい変化であるように思える。


「夏休みは、どこに行こっか?」

「……由佳はどこか行きたい所とかあるのか?」

「うーん……無難に海とか山とか?」

「海に山か……そこに行くのも随分と久し振りなような気がする」


 例によって、俺は海も山も馴染みがなかった。そもそも夏休みにどこかに出掛けるなんて習慣がなかったくらいだ。

 しかしどちらも、定番と言える場所であるだろう。そこに由佳と一緒に行けば、きっと楽しいはずだ。


「……少し心配だな」

「え? そんなに危険な場所じゃないよ?」

「ああ、いや、そういうことではないんだ……その、海とかだとナンパとかあるだろう?」

「ああ、そういう心配だったんだね」


 由佳はとても可愛い。故に、男に声をかけられるということもあるはずだ。それが俺にとっては、とても心配だった。

 さらに、由佳の水着姿を誰かに見られるというのも嫌ではある。俺だけに見せる露出度が高い水着ではなかったとしても、やはりそれ程快いものではない。


「そういう人達からはろーくんが守ってくれるでしょ?」

「もちろんそうしたいとは思っているが……」

「というか、男の子と一緒にいたら多分声とかはそんなにかけられないと思うよ?」

「そういうものなのか……」


 口振りからして、由佳は四条達と何度か海に行って、そういう経験をしてきたということなのだろう。

 確かに竜太なんかが傍にいたら余程のことがない限り、声なんてかけないように思える。

 しかし、俺で同じことが起こるだろうか。なんというか、あまり自信がない。

 とはいえ、それでも頑張るしかないだろう。俺は由佳の彼氏なのだから、何があっても彼女を守らなければならない。


「まあでも、ろーくんが心配なんだったら、海には行かなくてもいいかな。水着は、家でも見てもらえるし、というか水着を見せるなら家の方がいいね」

「……見せてもらえるのはもちろん嬉しいが」

「何かあるの?」

「いや、その……平静でいられるかどうかわからないと思って」

「ああ……」


 由佳は、俺の言葉に少しだけ顔を赤くした。もしかしたら、先程の出来事を思い出しているのかもしれない。

 やはり、こんなことを伝えるべきではなかっただろうか。しかし、事実として俺の理性は前よりも抑えられなくなっていると思うので、その辺りに関してはきちんと伝えておかなければならないような気もする。


「ろーくん、そうなってもいいって思ってるから提案してるんだよ?」

「え?」

「夏休み……いっぱい遊ぼうね?」

「んっ……」


 そこで由佳は、振り向いて俺にキスをしてきた。

 その言葉からそんなことをされると、こちらも色々と動揺してしまう。体の奥の方から、熱が溢れてくる。


「……由佳、大好きだ」

「……うん。私も」


 俺は由佳の体をゆっくりと抱き寄せる。その温もりを噛みしめながら思う。彼女と再会できて、こういう関係になれて、本当に良かったと。

 この幸せな日々を守るためにも、これからも頑張っていこう。俺はぼんやりとそんなことを思いながら、彼女と再び時を重ねるのだった。



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番外編もこれにて完結とさせていただきます。

最後までご愛読ありがとうございました。

この作品で楽しんでいただけたなら幸いです。

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