第128話 俺達は再び誓いを立てる。
「ふう……」
由佳の部屋で、俺はゆっくりとため息をついた。
彼女の部屋には何度も訪れているが、未だにやはりドキドキする。ただ、今日はいつにも増して俺の鼓動は高まっているといえるだろう。
「ろーくん、おまたせ」
「ああ、いや……」
体育祭が終わってから一週間が経った金曜日、俺は由佳から泊まりに来て欲しいと言われた。
泊まること自体は、今まで何度も経験している。彼女の部屋で一夜を明かしたし、俺の部屋にも彼女が泊まった。
だが、今日は今までと違うことが一つある。由佳の両親がいないのだ。
「えへへ、なんだか静かな気がする」
「……まあ、この家には俺達しかいない訳だからな」
「……そうだよね」
由佳と二人きりで一夜を明かす。それは明確に初めてのことだ。
俺は今まで、彼女の両親がいるということを理由に理性を保ってきた。その理由が、今日はなくなっている。
しかしそう簡単に決心がつくものではない。その場の雰囲気などもあるし、色々と考えるべきこともあるだろう。
故に、俺はいつも通りでいることを心掛けている。もっとも、それが果たせているかどうかは別の話ではあるが。
「ねえ、ろーくん。ご褒美の話、覚えてる?」
「うん? ああ、もちろん忘れてはいないとも」
「体育祭も終わったし、そろそろ約束の時かなって思うんだ……どうかな?」
「む……」
そこで由佳は、長らく放置されてきたご褒美の話を切り出してきた。
それに関しては、色々と考えてきた。だが、未だに答えは出ていない。
由佳と望みを一致させる。それを差し引いても、中々答えは決まらなかった。如何せん、頼みたいことが多すぎるのだ。
「ろーくんは、まだ決まっていないの?」
「……正直言ってしまうとそうだな。色々と考えてしまって、中々決められない」
「そうなんだ……あのね、ろーくん。私、ろーくんの望みだったなら何でも叶えてあげるよ?」
「それはありがたい限りではあるが……」
由佳の言葉に、俺は少しだけ動揺していた。
この状況で、そんなことを言われてしまうと、何度か考えた頼みをしたくなってしまう。
しかし、それをご褒美としていいのだろうか。そんな考えが頭を過る。
「あうっ……」
「……うん?」
そこで俺は、由佳の様子が少しおかしいということに気がついた。
動揺しまくっていたため今まで気付いていなかったが、彼女は妙にそわそわしている。なんというか、ぎこちない態度だ。
それによって、俺は考えることになった。もしかしたら彼女もこの状況に動揺しているのかもしれないと。
「……本当になんでも聞いてくれるのか?」
「あ、うん。なんでも聞く」
「そうか」
俺は段々と状況を理解してきた。彼女が何を望んでいるのか。それが見えてきたのである。
この状況でこの話をしてきた時点で察するべきだったのだろう。俺はなんというか、かなり鈍感だったらしい。
しかし理解できたからといって、すぐに言葉にできるという訳ではない。俺は呼吸を整える。心の中で決意を固めて。
「それなら俺の望みは決められる。俺は由佳と……」
「うん……」
俺が言葉を紡ぎ出すと、由佳は少し顔を赤くした。
こういう時に、どうすればいいのかはよくわかっていない。どういう言葉をかけて、どういう行動をするべきなのか、俺は何も知らなかった。
だが、ここで止まるという選択肢はあり得ない。だからこそ俺は、必死に考える。
「……俺は由佳と一つになりたい。由佳ともっと深く繋がりたい。これからもずっと一緒にいるという誓いを立てたい」
「……私の望みも同じだよ。私はろーくんと一つになりたい。もう二度とろーくんと離れないようにもっと近づきたい」
俺の言葉に、由佳は少し顔を赤くしながらそう言ってきた。
俺達の望みは、一致している。それなら、何も迷うことはないだろう。後は行動に移すのみである。
俺達は、再び誓い合うのだ。もう二度と離れないということを。
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