第122話 二人の出会いの話題が今まで出なかった理由がわかった。
「竜太のことなら僕も聞いたよ」
「そうか」
由佳と一緒に登校してきた俺は、隣の席の江藤に竜太のことについて聞いてみた。大方予想はしていたが、こいつも相談を受けていたようだ。
「まあ、僕は四条さんのことをそんなに知っているという訳ではないから、そんなにあれこれ言える訳ではないんだよね……」
「四条のことを知らないというなら、それは俺も同じだろう」
「そうかな? 結構話しているような気がするけど……」
「それは由佳関連で……いや、確かにそうか」
江藤に言われて、俺は案外四条と話しているということに気付いた。
それはほとんど、由佳を通しての話ではある。ただ、その前提があっても結局俺が四条と江藤よりも深く関わっているという事実は変わらない。
「基本的には二人は仲良くしているように見えるから、そんなに問題はないようにも思えるけど、そういう訳ではないんだよね?」
「ああ、四条と付き合うのはそれなりに難易度が高いように思う」
「それは結局の所、告白してみなければわからないというようなものではないのかな? 難易度が高くないなんて思えることの方が少ないように僕は思うけれど」
「ふむ……」
誰かと付き合えるかどうかなんてことは、告白などをしてみるまではわからないことではある。故に江藤の言う通り、難易度は常に高いと思えるようなことなのかもしれない。
竜太も俺も由佳も、四条という人間の性格を重く考え過ぎているのだろうか。それは一度、考えてみなければならないことかもしれない。
「……しかし、今まで一緒に過ごした中で、勝算があると竜太が思えなかったという事実はそれなりに重く見てもいいことなんじゃないか? 江藤は、少なからず勝算を覚えられるような出来事があったりしなかったか?」
「……言われてみれば、あったような気もするね」
江藤は、想い人である穂村先輩と長い時間を過ごしてきた。その中で、告白しても大丈夫だと思えるような出来事が一回もなかったということはないだろう。
なぜなら、俺だってそう思うことはあったからだ。由佳と付き合うまでに、もしかしたらいけるかもしれないと思ったことは何度もある。
無論それは、確証という訳ではない。ただ竜太の口振りからして、あいつにはそういうことが一回もなかったと考えられる。
そう考えていくと、本当に勝算はないような気がしてしまう。竜太と四条は一緒に長い時間を過ごしてきた訳だし、その時間によって得たあいつの見解は信じてもいいはずだ。
「なんというか、少し意外だね……最初に会った時、僕はてっきり二人は付き合っているものだと思っていたけど」
「……江藤と竜太は、一体いつ出会ったんだ?」
江藤の呟きに、俺は純粋に疑問を覚えた。
そういえば、竜太と江藤は知り合いだったのだ。その繋がりを、俺は未だに聞いたことがない。
なんとなくではあるが、二人は今までそんなに深い付き合いがあったという訳ではないように思える。江藤と俺が再会したあの時の感じからすると、知り合い以上友達未満といった所だろうか。
「竜太と出会ったのは、去年の丁度このくらいの時期だね。体育祭で色々とあったんだ」
「体育祭……そうだったのか」
俺の質問に、江藤はそうやってゆっくりと語り始めた。少し苦笑いをしているので、恐らく二人の出会いはそれなりに難儀なものだったということなのだろう。
「実の所、話したのは四条さんの方が先だった。怪我をした僕を保健委員だった四条さんが治療してくれたんだ。結構、話は弾んだような気がする。でもそれを不運にも後からやって来た竜太に見られてね?」」
「ほう……」
時々忘れそうになるが、江藤は学校でも人気の男子だ。そんな男子が想い人と話しているという状況は、それなりに胃が痛い。
俺もそれは体験しているので、当時の竜太の気持ちはよくわかる。それはもう、心穏やかではなかっただろう。
「その後がクラス対抗リレーで、僕と竜太は丁度アンカーだった。さらに僕達の前の走者は僅差でね……まあなんというか、対抗意識を感じたよ」
「それはなんというか、偶然が重なったんだな……その結果は?」
「僅差だったけど僕が勝ったよ。あの時竜太が悔しがっていたことは、よく覚えている……それでその後、少し話をしたのさ。誤解という訳ではないけれど、そこで僕には想い人がいるということを話した」
「ああ、そういえばそんな話だったな……」
なんとなく、二人の出会いの話題が今まで出なかった理由がわかった。
それはなんというか、俺と江藤と竜太が三人揃っている中で話したいことではないだろう。竜太にとっては、ちょっと痛い出来事である訳だし。
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