第123話 幼馴染に褒められるのはとても嬉しい。
「ふふふ……」
机の上に並んだ紙を見ながら、由佳は笑顔を浮かべた。
そこには、今週返却されたテストが並んでいる。それらは全て、それなりの点数である。
いつもの由佳の点数は事前に聞いていたため、それらの点数が彼女にとっていい結果であることはすぐにわかった。今回のテストで、由佳はいつも以上の力を発揮することができたようだ。
「これもろーくんのおかげ!」
「いや、由佳自身の努力さ」
由佳の笑顔に、俺はそのような言葉を返す。
もちろん、俺の影響はあったのかもしれない。しかし結局の所、それらの点数が取れたのは由佳自身が真面目に勉強したからである。
「由佳はすごい。よく頑張った。偉い」
「えへへ……」
そのため俺は、由佳のことを褒め讃えることにした。
それに対して、彼女は誇らしいというような表情をする。その表情が可愛くて、ついつい笑顔を浮かべてしまう。
「まあでも、ろーくんに比べると劣っちゃうよね……」
「ああいや、まあこれはいつも通りの点数だ。代り映えがしない」
由佳は、俺のテスト結果を見て少しだけ落ち込んだ。
確かに、俺の方が由佳よりも点数はいい。ただこれに関しては、いつも通りだ。安定しているといえるが、進歩がないともいえる。
そう考えると、大きく平均点を伸ばした由佳の方がすごいといえるだろう。俺だって信じられないくらいだ。まさかここまで点数が伸びるとは思っていなかった。
きっと由佳は、地頭がいいのだろう。真面目に勉強しさえすれば、俺よりもいい点数が取れるのではないだろうか。
「でも、ろーくんは私に教えてくれていたでしょう? そう考えると、いつも通りの点数でもすごいんじゃない? だって、負担は増えていた訳だし……」
「ああ、いや、それは別に関係ないと思う。由佳に教えることによって、俺の学びにも繋がっていたからな……」
由佳の指摘は、間違っている。それは俺自身が、一番よくわかっていることだ。
彼女に教えることによって、自らの中でも整理ができた。おかげでいつもよりも学びの質が高ったように思える。
「でも、私はろーくんを褒めてあげたいかな? お姉ちゃんに、よしよしってされたくない」
「何?」
しかし由佳の言葉によって、俺は自らの認識を改めることになった。
確かに、俺は今回頑張ったような気もする。由佳に教えて、自分の成績を維持した。それは褒められるべき事柄ではないだろうか。
そんな風に、俺は自分に言い聞かせた。細かいことはどうだっていい。今はただ、由佳に褒めてもらいたい。
「それなら、褒めてもらってもいいか?」
「うん! ろーくん、頑張ったね?」
「あ、ああ……」
由佳は、中腰になって俺の頭をゆっくりと撫でた始めた。
そうやって頭を撫でられるのは、少し恥ずかしいような気もするが嬉しい。
ただ俺は、その嬉しさをあまり味わえていなかった。なぜなら目の前にある大きな二つの物体が、とても気になってしまうからだ。
「……ろーくん、おっぱい見てる?」
「ほへ?」
そうやって胸に視線を向けていた俺は、由佳の指摘に変な声を出してしまった。
どうやら、由佳は俺の視線に気付いていたようだ。いや、それは当然のことかもしれない。結構ガン見していた訳だし。
しかし、これに関しては仕方ない。彼女のそれが目と鼻の先にあって、目を向けないという方が無理なものだ。
ただこれは、謝らなければならないことである。由佳にとっては、不快な視線だっただろうし。
「その……すまない」
「謝らなくてもいいんだよ? ろーくんは見てもいいんだから。だって私は、ろーくんのものだもん」
「いや、しかし……」
「ふふっ……」
「え?」
次の瞬間、俺は柔らかいものに包まれた。幸せな感触を感じながらも、俺は驚いていた。あまりの突然のことに思考が追いつかない。
ただ状況はなんとか理解できた。これは由佳が、俺を抱きしめた結果起こったことなのだ。
「……こうして欲しかったんでしょ?」
「それは……まあ、そうだが」
由佳の言葉に、俺はなんとかか細い声を絞り出す。
どうやら思考が追いつかないのは、突然のことだからという訳でもないらしい。由佳の柔らかいものに触れているというこの状況が、俺を動揺させているようだ。
しかしそれこそ、本当に仕方ないことである。この状況で冷静になれる訳がない。それは無理な話である。
「ろーくん、頑張ったね……」
そんな俺の頭を、由佳は尚も撫でていた。
とりあえず俺は、この幸せを味わってもいいのだろうか。そんなことを思いながら、俺は由佳に体を預けるのだった。
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