第121話 親友であってもわからないことはあるらしい。

「そんなことがあったんだ……」

「ああ……」


 俺は由佳に、竜太と話したことを伝えた。

 もちろん、あいつにも許可は取っている。舞のことをよく知っている由佳には是非協力して欲しい。竜太はそのように考えているようだ。


「やっぱり竜太君は舞のことが好きだったんだね……」

「そうみたいだ」


 竜太の好意に関して、由佳はまったく驚いていなかった。

 まあ、それに関しては俺も同じだったかもしれない。好意に関しては明確だったといえるだろう。

 ただ問題は、竜太の考えに関することだ。その辺りは、少々ぼかして話した方がいいだろう。


「まあ、竜太も俺達に影響されたといった所だろうか。長年の好意を叶えようと考えているらしい」

「そうなんだ。それは多分、いいことだよね?」

「ああ、そうだろう」


 四条が由佳のことを一番としている。そういった裏の事情は本人には流石に話し辛い内容だ。

 だから、そこには触れないでおく。ただ、四条の恋愛観などについてはある程度触れなければならない。そこをどうやって切り崩すかに関しては、由佳からの協力が必要だからだ。


「竜太の予測では、四条は恋愛にあまり興味をもっていないらしい。その辺りに関して、由佳はどう思う?」

「それは……難しい質問だね?」


 俺の質問に対して、由佳は苦い顔をする。どうやら、その辺りは彼女もよくわかっていないようだ。

 一番の親友といっても過言ではない由佳でもわからない。ということは、四条という人間は中々に難しい人間であるのだろうか。


「私の相談には、よく乗ってくれていたんだけど……でも、確かに本人からそういうことは聞いたことないから、あんまり興味がなかったりするのかな?」

「まあなんというか、他人の恋愛を楽しむタイプではあるのだろうな。月宮と同じような感じといえるだろうか」

「千夜もそうだね。涼音といる方が楽しいって思うタイプかな?」


 月宮と四条は、根本的に似ているタイプなのかもしれない。俺へのからかい方などそっくりだし、考えてみれば似ている部分は多いような気がする。

 しかし現在、二人には大きな違いがあるといえるだろう。親友と呼べる存在に、彼氏がいるかいないかという要素は、それなりに影響があるはずだ。

 最近の由佳は、ほとんど俺と一緒にいてくれる。それはつまり、四条には現在彼氏よりも一緒にいて楽しい存在がいないことを意味しているのだ。


「ちなみに涼音も、彼氏とかはあんまりってタイプかも……まあ、それを知ったのは最近なんだけどね?」

「ああ……」


 由佳の言葉に、俺はとても納得していた。

 水原は、二人とは少々毛色が違う。あいつはなんというか、趣味に生きる人間だ。

 最近は気を遣ってくれているのか、長文でアニメ漫画の感想を送って来たりはしていないが、水原にとって一番楽しいのはそれだろう。もちろん、それと同等以上に月宮といるのは楽しいのだとは思うが。


「そう考えると、私達の中で恋愛に興味があったのは私だけだったんだね。まあ、私は単純にろーくんのことが好きだってだけだけど」

「ふむ……それはありがたい話ではあるな」

「えへへ……」


 由佳は、ゆっくりと俺の方に身を寄せてきた。

 彼女がずっと俺のことを想ってくれていたという事実は嬉しい限りだ。そんな由佳だったからこそ、四条もあそこまで入れ込んでいたのだろうか。

 そんな彼女から由佳を奪ったことは、少し申し訳なく思う。だが、それでも由佳を離すつもりはない。四条には悪いが、俺は由佳とできる限り一緒にいようと思っている。


「でも多分、舞も竜太君に想われて悪い気はしないと思うよ?」

「……そうだろうか?」

「うん。舞は竜太君のことを弟みたいに思っているのかもしれないけど、でも弟に思うくらいには親密ってことでしょ?」

「……まあ、言われてみればそうだな」


 当然のことながら、四条と竜太は本当に姉弟という訳ではない。そんな二人が、お互いにそのように思う部分があるというのは、二人がかなり親密であるということを表している。

 つまり、思っていた以上に可能性は高いのかもしれない。何かきっかけがあれば、二人の関係は大きく変わることになるだろう。

 もっとも、気をつけなければいけないことは変わらない。変化が良い方面であるとは限らないのだから。


「……簡単な問題ではないか」

「うん。そうだね。一歩を踏み出すのって、難しいことだと思う」


 俺の言葉に、由佳はゆっくりと頷いた。

 俺達だってそうだった。変化はいつだって怖い。いい方向に変わってくれるという期待よりも、悪い方向に変わるかもしれないという恐怖の方が大きいのだ。

 だから竜太の件も、慎重に進めていくしかないだろう。俺はそんなことを思うのだった。

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