第120話 恋愛相談に自信があるという訳ではない。
「九郎、少しいいだろうか?」
「うん? ああ、大丈夫だが……」
昼休み、俺は竜太に話しかけられていた。
最近俺は、由佳が作ってきてくれたお弁当を彼女と一緒に食べるという毎日を送っていた。
ただ、今日は由佳は四条達と昼食を取っている。偶には友達と食べるのもいいのではないかという俺の言葉を、彼女が受け入れたのだ。
そのため、今日の俺は暇である。一人で少し寂しく、昼食を取っていたのだ。
「実は九郎に相談したいことがあるんだ」
「相談したいこと? 何か悩みでもあるのか?」
「舞とのことだ」
「四条、なるほど……」
竜太の言葉に、俺は大方の事情を察することになった。
二人のことは、少し前から気になっていた。しかしその曖昧な関係を本人達がどう思っているのかは、聞けずにいたことである。
「まあ、察しているかもしれないが、俺は舞のことが好きだ」
「そうか……」
竜太はまるで動揺することもなく、四条への好意を俺に伝えてきた。
もちろん、俺もそれは察していたことではある。ただ、ここまで無表情でそういうことを言われると、少し面を食らってしまう。
「以前話したとは思うが、俺は舞に救わた。その時からずっと彼女のことを想っている。もっとも、それを伝えるつもりはなかった」
「……どうしてだ?」
「勝算がないからだ」
俺の質問に対して、竜太ははっきりとそう言ってきた。
俺はその言葉に驚いてしまう。まさかそのようなことを言われるとは思っていなかったからである。
「そんなに見込みが薄いのか?」
「ああ、舞は俺のことを弟のように思っている」
「ふむ……」
竜太の言葉を聞いて、俺は以前由佳と話したことを思い出していた。
確かに二人は、仲が良い姉と弟のような関係性である。
しかしだからといって、恋人になれないものなのだろうか。俺と由佳だって兄と妹みたいな感じの時はあるし、少しずれたら可能性はあるような気もする。
「それは勝算がないと思う程に、大きな壁なのか?」
「大きな壁だと思っている。舞はきっと、俺のことを恋愛対象として見ていない……いや、というか舞は恋愛に興味がないんだと思う」
「そうなのか……」
竜太の推測は、わからない訳でもなかった。
今まで四条と接してきたため、ある程度彼女のことは知っているつもりだ。それらの知識から彼女が自身の恋愛に興味を持っているかと考えると、微妙な所ではある。
「由佳の相談には、随分と乗ってくれていたようだが……」
「……強いて言うなら、舞にとって一番重要なのは由佳なのだと思う」
「由佳か……まあ、わからなくはないな」
「昔から舞は友達思いだった。由佳は、そんな舞の親友になった。だから舞は、由佳のことをとても大切にしている……まあ、俺が弟なら由佳は舞にとって妹みたいな存在なんだと思う」
四条が由佳のことをどれ程大切に思っているかは、俺もよくわかっていた。
思えば、最初に会った時から彼女は由佳のために怒っていたはずだ。後からわかったことではあるが、四条が大きく感情を動かすのはいつも由佳のためだった。
俺はそれをありがたいことだと思っている。四条が由佳の親友でよかったとは何度も思ってきた。
しかしその由佳への大きな想いは、竜太にとっては心を折られるようなものだったらしい。
「だから俺は、今まで自分の想いをどうこうしようとは思わなかった。それができるのはきっと、由佳の想いが成就してからだと思っていたんだ」
「由佳の想いが成就……それはつまり、俺と由佳が結ばれるまで、ということか?」
「ああ。要するに俺は、自分のために九郎に協力していたという訳だ」
竜太はそう言いながら、笑っていた。
だが、それは多分嘘だろう。こいつは、そんな事情がなくても絶対に協力していたはずだ。
それがわかるくらいには、竜太のことは知っている。だから俺は、今度はこいつのために何かしたいと思う。
「つまりこれからは、何かしようという訳か」
「そうだな……そうしようと思っている。つまり、今日はその相談をしたいという訳だ。これから俺は何をしていけばいいのか、ご教授願いたい」
「ご教授か……それは中々、難しいような気もするな」
竜太に協力したいという気持ちは山々だ。ただ、そういった相談に、俺が乗ることができるかは別の話である。
恋愛面の駆け引きというものを、俺は理解している訳ではない。俺の経験などを話せばいいのだろうか。
「まあ……俺が由佳とどのようにして結ばれたかなんかを、話したらいいだろうか?」
「いや、それは多分俺には参考にならないだろう。由佳も九郎も、元々お互いに想い合っていた訳だし……」
「そ、そうか……」
「まあ、俺も色々と考えていることはある。だから、その内容を一緒に吟味してくれるだけでもいい。九郎の考えを聞かせてくれたら、後は俺自身で考える。結局最終的に決めるのは、俺自身な訳だしな」
「なるほど、それならわかった。俺の個人的な考えを話させてもらおう」
竜太の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
とにかく、俺に言えること素直に言っていこう。そう思いながら、俺は竜太の話を聞くのだった。
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