第114話 付き合ってから初めてのお出かけはとても楽しかった。
付き合ってから初めてのお出かけの行き先は、水族館ということになった。
今まで行っておらず、定番ともいえるこの場所が初めてのお出かけには最適なのではないかという話になったのだ。
「ふぅ……」
「由佳、大丈夫か?」
「あ、うん。平気だよ。ちょっと疲れただけだと思う」
「まあ、色々と見て回ったからな」
そんな水族館は、とても楽しかった。
例によって、俺は由佳と一緒に来て以来水族館にも来ていない。
随分と久し振りなので、俺も童心に戻って楽しめたような気がする。人間とはまったく違う世界に暮らす生き物に、感動すら覚えた程だ。
由佳も水族館を楽しんでいたはずだ。ただ楽しみ過ぎたため、ベンチに座って落ち着いた瞬間に少し疲れが出てしまったのだろう。
「……楽しかったね?」
「ああ、そうだな。すっかりはしゃいでしまった」
「確かにろーくんも目をキラキラさせていたね?」
「そう言われると、少し恥ずかしいな……」
「ううん。そんなことはないよ。私も同じだったし」
由佳に楽しんでいることを悟られていたということは、別にそこまで恥じるようなことではないはずだ。というか、それはむしろ大切なことのような気もする。
ただなんというか、無性に恥ずかしかった。やはり俺は由佳の前では、格好つけたいということなのだろうか。
しかし考えてみれば、それは今更のような気もする。由佳には俺のそういう面は何度も見られている訳だし。
「サメとかすごい迫力だったな……」
「ろーくんはサメが好きなの?」
「まあ、嫌いではないな。子供じみた考えではあるが、かっこいいと思う」
色々と考えた結果、俺は素直な感想を口にすることにした。結局格好つけても仕方ないと悟ったからだ。
海の生き物の中で俺が最も好きなのは、恐らくサメなのだろう。なんとなく今日も、サメに視線を向けていたような記憶がある。
それはきっと、幼い頃の印象が大きいのだろう。最初に見た時の迫力に、俺は未だに囚われているのかもしれない。
「私はサメはちょっと怖いかな……最初に見た時に怖いって思って、それからずっとそんな感じかも」
「確かに怖いというのも理解はできる。あの牙は恐ろしいよな」
「うん。海とかに行った時に絶対に会いたくないと思う」
「……まあ、それは俺も同じだな」
由佳の言葉に、俺は頷くことしかできなかった。
当たり前のことだが、サメが好きでも海では会いたくない。まず間違いなく、危険でしかないからだ。
そう考えると、なんというかサメが好きなんておかしいのかもしれない。会いたくないと思う生物を好きと呼ぶのは、少し抵抗がある。
「……由佳は、イルカショーの時にかなりテンションが高くなっていたな」
「あ、うん。イルカショー、すごく楽しかったもん」
「ああ、俺も楽しかったと思う。ただ前の方の席の人達は、結構大変だっただろうな」
「水とかかかってきていたもんね。まあ、そういうものだって理解はしているだろうから、平気だとは思うけど」
俺と由佳は、イルカショーも楽しんだ。小さな頃にも見たが、やはりイルカの動きは見事なものだった。何度も感心するような声をあげていた気がする。
それに俺は個人的に、イルカも好きだった。見た目もかわいいし、こちらは海でも結構会いたいと思うので、もしかしたらサメよりも好きなのかもしれない。
「でも、イルカショー以外も楽しかったよ。触れ合いコーナーとかも、良かったよね?」
「ああ、確かに面白い場ではあった。正直、おっかなびっくりだったが」
「私だって、平気ではなかったよ。ヒトデとかでも、やっぱり怖いよね?」
「まあ、普段触れることなんて絶対にない訳だからな……」
水族館には、触れ合いコーナーもあった。そこでは、ヒトデなどといった海の生物と触れ合うことができたのだ。
当然、そこにいる生き物は危険がないと判断されている訳だが、それでもやはり怖いものは怖い。
とはいえ、終わってみると楽しい記憶しか残っていない。もっとも、もう一回行ったらもう一回怖がると思うのだが。
「何はともあれ、今日は本当に楽しかった……」
「うん。でも、ろーくん。まだ今日は終わっていないんだよ? 家に帰っても、色々と遊びたいし」
「……そうだな。多分、これからも楽しい日になると思う。それに明日だってそうだ」
由佳の言葉に、俺は思わず笑みを浮かべていた。
幸福なことに、俺達は家に帰ってからも一緒にいられる。だから、楽しい日はまだまだ終わらないのだ。それが嬉しくて、笑ってしまった。
「……せっかくだから、何か買って帰るとするか」
「あ、お土産コーナー?」
「ああ、丁度目に入ったし、いい思い出になるだろう」
そこで俺は、自然とそんな提案をしていた。
由佳と水族館に来たということを俺は、何かものとして残しておきたいのかもしれない。記念日とかそういうものには興味がなかったつもりなのだが、もしかしたら俺はそういうものにこだわる性格なのだろうか。
「……ろーくん、それならお願いがあるんだけど」
「お願い? ちなみに、俺は由佳に何かプレゼントしたいと思っているが……」
「あ、うん。それは嬉しい。だけどね、お願いはそういうことじゃないんだ」
「む、そうか……」
由佳の言葉に少し格好つけて答えた俺は、少し面を食らってしまった。
なんというか、いまいち締まらない。やはり格好つけるということは、俺には不可能なことのようだ。
「ろーくんとお揃いがいいなって思ったんだ」
「お揃い、なるほど……確かにそれはいいかもしれないな」
由佳の提案に、俺は思わず強く同意していた。
それはなんというか、とてもいいものであると思う。少し気恥ずかしいが、恋人らしいような気がする。
「とりあえず見てみるか」
「うん。そうしよう」
俺と由佳は、手を繋いでお土産コーナーの前まで歩いて行った。
当然のことながら、お土産コーナーには様々な商品が並んでいる。
ただ、俺はすぐにある商品に目がいった。その商品が、明らかに俺達に良さそうだったのだ。
「……このイルカのキーホルダーでいいんじゃないか?」
「あ、うん。そうだね。それが良さそう」
俺が手に取ったイルカのキーホルダーは、ペアのキーホルダーだ。青色とピンク色のイルカを模したそれは、恋人向けの商品ではあるが、やはりそういう商品であるため、俺と由佳には最適なような気がする。
由佳も同意してくれていることだし、これでいいだろう。こうして俺達は、ペアのキーホルダーを買って帰るのだった。
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