第96話 俺は彼女を決して離さない。
「……んっ?」
「あっ……」
ゆっくりと目を開けた俺は、自分の目の前にとても可愛い女の子がいるということに気付いた。朝一番にその顔を見られるというのは、なんとも幸せなことである。
「ろーくん、起きた?」
「ああ……由佳はもう起きていたのか?」
「うん。起きてたよ。ろーくんの寝顔を見てたの」
「そうだったのか……少し恥ずかしいな」
寝顔を見られるというのは、少し恥ずかしいことだった。自分がどんな顔をしていたのかが、まったくわからないからだ。
ただ、俺は昨日由佳の寝顔を結構じっくり見ていた。そのため、これに関してはお相子ということになるだろうか。
「ろーくん、昨日の約束は覚えてる?」
「約束? ああ、もちろんだ」
由佳の言葉を受けて、俺は彼女にゆっくりと顔を近づける。そしてそのまま、俺達は唇を重ねた。約束通り、おはようのキスをしたのだ。
「おはよう、ろーくん」
「ああ、おはよう、由佳」
顔を離した後、俺達は朝の挨拶を交わした。
こうやって二人で一日を始められるのが、本当に嬉しい。とはいえ、今日は由佳と一緒にいられる訳ではないのだが。
「今日は四条達と約束してるんだったな?」
「うん。別に今から断っても皆怒らないとは思うけど……」
「いや、約束というのは大切なものだ。守った方がいい」
寂しそうな顔をする由佳の頭を、俺はゆっくりと撫でる。
彼女は少し迷っているのだろう。四条達との約束を断って、今日も俺と一緒にいるかどうかを。
しかしながら、俺は由佳に行って欲しいと思っていた。友達との時間も、彼女にとってはきっととても大切なものだ。俺に集中するだけではなく、その時間も楽しんで欲しい。
「由佳だって、四条達と遊びたくないという訳ではないんだろう?」
「それはもちろんそうだよ。でも、ろーくんとも一緒にいたいし……」
「一昨日からこの瞬間まで、由佳は俺と一緒にいただろう?」
「でもろーくんとはずっと一緒がいいし……」
「そう言われると、少し困ってしまうな……」
由佳が俺と一緒にいたいと思ってくれているのは、本当に嬉しいことではある。
しかし流石に、四条達の遊びに俺がついて行く訳にはいかない。俺が入った時点で、それはまったく違う形になるからだ。
「まあ、出かけるまでは一緒にいられる。その内になんというか、俺を楽しんでくれ」
「……楽しんでもいいの?」
俺の少しふざけたような提案に、由佳はとても嬉しそうな顔をしてくれた。
俺を楽しむとは、具体的にどういうことをするのだろうか。自分で言ったことではあるが、よくわからない。しかしまあ、なるようになるだろう。
「もちろんだ。俺にできる限りのことをしよう」
「……それなら、ろーくん成分をしっかり補充させてもらおうかな?」
「ああ」
という訳で、今日は由佳に存分に楽しまれることが決まった。
何をされるかわからないが、別に何をされてもいいとは思っている。由佳に何をされても、俺にとってはご褒美にしかならない。だから正直楽しみでしかないのだ。
「舞達に、色々と報告しないとね……」
「……四条達は、多分祝福してくれるんだろうな」
「うん。絶対祝福してくれると思う」
俺と由佳が付き合ったということは、まだ誰にも伝えていなかった。
一応色々とあったため竜太には解決したという連絡をしたので、あいつは既に察しているかもしれないが、まだはっきりと伝えてはいない。そのため、どのような反応をされるのかは未知数なのである。
だが、恐らく皆祝福してくれるのだろう。皆いい奴であるため、それは予想できる。月宮辺りには、色々とからかわれるとは思うが。
「あ、それでね、ろーくん。ろーくんは今日はどうするの?」
「うん? まあ、流石に家に帰ろうと思っているが……」
「……それなら、また明日かな?」
「あ、いや、明日は珍しく少し用があるんだ」
「あ、そうなんだ……」
俺の言葉に、由佳は表情を少し曇らせてしまった。
当然のことながら、俺も由佳とは一緒にいたい。しかしその用に関しては、流石にすっぽかせないため、ここは我慢してもらうしかないだろう。
「由佳、俺も由佳とはずっと一緒にいたいと思っている。だが……」
「うん。わかってる。私は大丈夫だよ、ろーくん。だってまたすぐに会えるし、電話だってできるんだから」
「……そうか」
色々と言う必要があるかと思ったが、由佳はすぐに納得してくれた。
ただ彼女の言葉に、俺はなんともいえない気持ちになった。そこで我慢できるのは、彼女が九年間耐えてきたからだと理解できたからだ。
「由佳……俺達の気持ちは、もう繋がっている。これから俺は一生由佳から離れない。それを覚えておいてくれ」
「ろーくん……うん」
俺は、ゆっくりと由佳を抱き寄せた。彼女を離さないという言葉を、体でも表すために。
すると由佳は、力強く俺の体を抱きしめてきた。それはきっと、俺をもう二度と離したくないという彼女の気持ちの表れなのだろう。
これからの未来を二人で歩いていく。それを誓い合うために、俺達はお互いを強く抱きしめるのだった。
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