第91話 彼女の嫉妬は正直嬉しい。

「……ろーくん、今日はいっぱい遊ぼうね?」

「あ、ああ……」


 夕食が終わった後、俺は由佳とともに彼女の部屋に戻って来た。

 戻って来てから、由佳の態度は少し前のめりになっている。それはきっと、俺と由佳のお父さんが食事を準備してもらっている間に親交を深めたからなのだろう。


「私もね、結構ゲームとかするんだよ? お父さんが好きだから、色々と貸してもらったりしてるんだ」

「そうなのか……」


 今まで知らなかったことだが、由佳のお父さんは結構なゲーマーだった。休日などは、ゲームをしたりして遊んでいるらしい。

 そんな由佳のお父さんがしているゲームは、俺も知っているゲームだった。そのため、結構盛り上がったのである。食事の最中も、色々と話をしたくらいだ。

 その結果、由佳は少し前のめりになっていた。これはやはり嫉妬してくれているということなのだろうか。

 由佳が嫉妬してくれているならそれは嬉しいことではある。ただ、これは流石に由佳のお父さんが忍びないような気がしてしまう。


「……由佳」

「え? ろーくん?」


 という訳で、俺は由佳を抱きしめることにした。とにかく彼女を安心させる必要があると思ったからだ。

 彼氏になったのだから、その辺りを気にする必要はもうないだろう。俺は既に、由佳のことを抱きしめてもいい立場なのだから。


「嫉妬してくれているなら、それはすごく嬉しい。だけど、俺の一番はいつだって由佳だ。それは覚えておいて欲しい」

「ろーくん……」

「んっ……」


 俺の言葉に、由佳はキスを返してきた。

 何度唇を重ね合わせても、その幸福感はまったく変わらない。むしろ、より強く由佳を求めてしまう。


「……ごめんね。お父さんがろーくんと仲良くしてるのを見てたら、なんだか少しもやもやしちゃったんだ」

「その気持ちは嬉しいし、俺だってそういう気持ちを抱く時はあると思う。だけど、流石にお父さんにそういう感じになるのはな……」

「う、うん。そうだよね、お父さんに悪いよね……」


 由佳自身も、自覚している部分はあったようだ。しかしそれでも嫉妬した。それは彼女が俺のことを想ってくれている証左といえるだろう。


「由佳……」

「んっ……」


 由佳への想いが溢れたため、俺は彼女と再び唇を重ねた。

 何度キスをしてもし足りないと思ってしまう。なんというか、このまま歯止めが利かなくなりそうだ。


「……ろーくん、大好きだよ?」

「……ああ、俺も由佳のことが大好きだ」


 由佳の愛の囁きに対して、俺も愛の囁きで返した。

 そして俺達は、どちらからとでもなく自然と唇を重ねる。お互いに想いが溢れて、お互いを求めてしまったのだろう。


「……あ、ろーくん。今日のお風呂なんだけどね」

「……お風呂?」

「うん……一緒に入らない?」

「む……」


 由佳の要求に対して、俺は言葉を詰まらせることになった。

 由佳とお風呂に入りたいか入りたくないかでいえば、それはもちろん入りたいに決まっている。しかし由佳の裸を見たら俺の理性はきっと崩壊してしまう。だから非常に残念なことではあるが、ここは断るべきだろう。

 先程色々と言ったということもあるし、何より今日は由佳の両親もいる。その状況でどうこうなるなんてことは避けるべきだ。


「由佳、悪いが……」

「あのね。流石に裸を見られるのはまだ恥ずかしいから、私は水着で入ろうかなって思うんだ。ろーくんは腰にタオルを巻いたらどうかな?」

「水着にタオルか……なるほど」


 由佳の提案に、俺は少し考えることになった。

 水着であっても、露出度はかなりのものだ。ただ、俺の理性もぎりぎり耐えてくれそうな気もする。

 というかもう考えるのが面倒なので耐えられるということにしよう。俺だって由佳とお風呂に入りたいと思っている。今はその欲求に従ってもいいだろう。


「わかった。それなら一緒に入ろうか」

「うん……ろーくん、水着楽しみにしていてね」

「あ、ああ……」


 由佳の言葉に、俺は生唾を飲み込むことになった。

 由佳の水着は、もちろん楽しみである。しかしながら少々心配だ。やっぱり理性が崩壊してしまうかもしれない。


「ろーくん?」

「あ、いや、すまない。由佳の水着を想像してしまった……」

「……楽しみにしてくれているんだね?」

「それはもちろんだとも。楽しみではない訳がない」

「えへへ……」


 由佳は少し頬を赤らめながら笑顔を浮かべた。その表情がたまらなく可愛い。本当に由佳の笑顔は素晴らしいものだ。もう何度目になるかわからないが、俺はそれを改めて認識するのだった。

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