第82話 幼馴染と朝を迎えられるのはとても幸福だ。
「……」
朝がきてゆっくりと目を覚ました俺は、目の前で安心しきった顔で寝ている由佳を見ながら奇妙な感覚に陥っていた。
昨日何があったかは、はっきりと覚えている。寝ぼけていたが、俺はなんて大胆なことをしてしまったのだろうか。
由佳と同衾する。俺は最初それをまずいと思っていた。だが結果的にはこうして一緒に寝ている訳で、自分のことながら意志の弱さに少し呆れてしまう。
「……いや、そもそもこの状況はなんだ?」
そこで俺は、改めて自分の状況を振り返ってみた。
同年代の女の子の家に泊まって、同じベッドで一夜を明かした。そこだけ切り取ってみると、なんだか深い意味があるような気がする。
しかし実際には言った通りのことが起こっただけで、別に他意はない。そう考えると俺の意思というか理性は、結構固かったのではないかとさえ思えてしまう。
「まあ、単に意気地なしともいえるのかもしれないが……」
だがよく考えてみると、この状況で何も手を出さなかったというのは逆にまずいように思えてくる。
もしかして、由佳もそういう展開を期待していたのではないか。一夜明けてから冷静になったことによって、俺にはそのような考えが浮かんできた。
とはいえ、それは俺の好意的な解釈に過ぎないのかもしれない。由佳がそう望んでくれていたらいいという願望が入っている気がしなくもない。
「しかし終わったことを考えても仕方ないか……」
「んっ……」
俺は目の前にいる由佳の頭をそっと撫でる。すると彼女は、嬉しそうな反応をしてくれた。
ただ俺は自分自身の行動に驚いてしまっていた。昨日から俺は自然に由佳に手を伸ばしている。彼女に何も考えず触れているのだ。
それは昔に戻ったともいえるのだが、少々問題がある行為ではあった。同年代の女の子に許可なく触れるというのは、中々危うい行為である。
「いかんな、これは……」
「……いけないことなんてないよ?」
「え?」
突然聞こえてきた由佳の声に、俺は変な声を出してしまった。
だが何が起こったのかはすぐに理解できた。考えるまでもなく、由佳が起きたということなのだろう。
「お、起きていたのか? いつから?」
「うん……ろーくんが撫でてる途中からだと思う。起きた時にはもう撫でてくれていたし……」
「すまない。起こしてしまったな。それに勝手に触れてしまって……」
「ううん。それは全然。多分撫でられるのとか関係なく、目は覚めていただろうし……」
独り言をどこまで聞かれていたかが心配だったが、どうやら最後の言葉以外は聞いていなかったようである。
それなら良かった。少々聞かれたらまずいこともあったから。
ただ結果的に由佳を起こすことになったのは申し訳ない。女の子に触れることもそうだが、そもそも寝ている相手に触れるというのはやめておいた方が良かっただろう。
「というか、もっと撫でて欲しいな……」
「……まあ、そういうことなら喜んで」
「うん……」
寝ぼけ眼の由佳を、俺はゆっくりと撫でる。ふわふわとした由佳の髪は、とても触り心地がいい。正直、ずっと撫でていたいくらいだ。
「ねえ、ろーくん。今日はどうする?」
「……由佳は何かしたいことがあるか?」
「今日も一緒にいてくれる?」
「もちろんだ。由佳と一緒にいたいからな……」
「うん、私も……」
寝起きだからだろうか。俺はすごく素直に自分の気持ちを口にすることができた。そんな俺に、由佳は笑顔を向けてくれる。
本当に可愛らしい笑顔だ。それが朝一番に見られるなんて、なんて幸せなことなのだろうか。
「どこかに出掛けるか?」
「うーん……家でまったりするのもいいかなって思うんだけど」
「別に俺はそれでも構わないが……何かあるのか?」
「せっかくのゴールデンウィークだし、どこかに出掛けたいって気持ちもあるんだ」
「なるほど、まあ確かにそれはそうかもしれないな」
一応長い休みであるため遠出をしたいという気持ちはわからなくはない。
しかし正直な所、今日はそんなに出掛けたい気分ではなかった。こうして由佳とずっとまったりしたい気分なのだ。
だが、由佳が出かけたいというならそれに従うつもりである。俺の気分なんかよりも、彼女の望みを叶えたいからだ。
「やっぱりあんまり遠くには出掛けなくてもいいかな……」
「そうなのか?」
「うん。ろーくんとゆったり過ごしたいなって思っちゃったから……」
「由佳がそれでいいなら俺としては異論はないさ。元々、遠出が好きという訳ではないからな」
「そっか。それなら近場で何かしよっか……ショッピングとかでもいい?」
「もちろんだ」
少し考えた後、由佳はそのような結論を出した。
俺の願望かもしれないが、もしかしたら彼女も思ってくれたのかもしれない。今は遠くに出掛けるよりもこうやって寄り添う時間を大切にしたいと。
今から出掛けてバタバタするよりも、こうやって和やかな時間を過ごしたいと俺は思っていた。由佳も同じ気持ちだったのではないだろうか。いや、もしかしたら俺の心を見透かしていたという可能性もあるかもしれない。
しかしどちらにしても、この決定は俺にとっていいものだった。まだしばらく、こうして由佳と寄り添っていられるから。
「今日も楽しい一日なりそう……」
「ああ、そうだな……」
由佳の頭を撫でながら、俺はこれからのことを少しだけ考えていた。
由佳に想いを伝えたいと俺は思っている。そのタイミングを俺は見極めなければならない。いい雰囲気になったら今度こそ言いたい所だ。
ただそれが今日訪れるかはわからない。せっかくの告白だ。できればいいものにしたい。そのためにも慌てずに時を待つことにしよう。
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