第80話 無事に眠ることができるかどうかはわからない。
「さて……」
由佳が眠りについたので、俺も寝る準備をすることにした。
多分由佳としても本当は色々とやりたかっただろうが、日中の疲れもあったのだから今日はもう仕方ない。
「電気は……これか?」
俺は由佳の枕元にあるリモコンを手に取り、部屋の電気を消す。
とりあえず真っ暗にしてみたが、これでいいのだろうか。確か昔は、真っ暗だと眠れないと言っていたような気がするのだが。
「豆電球くらいにしておくか……」
念のため、俺は少しだけ明かりをつけておくことにした。
俺は別に多少明かりがあっても問題はない。由佳はもう眠っている訳だし、これでいいだろう。
「とはいえ……」
布団の上に寝転びながら、俺は目を瞑ってみた。
ただ正直眠れる気がしない。今の俺は、色々と興奮しているからだ。
由佳の上に来てから、俺は動揺しっ放しだった。つい先程は由佳のふとももに釘付けになっていたし、すぐに眠れる訳もないだろう。
「とにかく落ち着くしかない……」
この体に宿っている熱を取り除くことは難しい。方法がないという訳ではないが、少なくとも今は無理だ。
だから落ち着くまで待つしかない。しかしながら、この由佳がすぐ隣で眠っているという状況で落ち着くのも中々難しいような気もする。
「由佳のことを考えるな……」
とりあえず俺は何も考えないことを心掛ける。自分にそう言い聞かせて、意識をなんとか落ち着かせていく。
「いや無理だわ」
だが、それは難しかった。この状況で由佳のことを意識しないなんて無理だ。できる訳がない。
俺は、体を起こして一度伸びをする。今無理に寝ようと思っても無理だ。何か他のことをするとしよう。
ただ、この状況でできることは限られている。この部屋から出て行くこともできないし、スマホをいじるくらいしかないだろうか。
「……あれ?」
「うん?」
そんなことを考えていると、由佳の声が聞こえてきた。
俺は、ベッドに近づいて彼女の様子を見る。どうやら少し目を覚ましたようだ。まだ眠そうなので、うとうとした状態ではあると思うが。
「ろーくん?」
「由佳、どうかしたのか?」
「んんっ……」
「む……」
由佳は、俺に向かって手を伸ばしてきた。意図はわかったので、俺はその手を握る。すると思った通り、彼女は握り返してきた。
「えへへ……」
由佳の笑顔に、俺も思わず笑ってしまう。本当に、彼女の笑顔は可愛らしい。ずっと見ていたいとそう思う。
「すー……すー……」
「……由佳?」
その直後に、由佳の寝息が聞こえてきた。また眠り始めたということだろう。
ただまだ俺の手は握られている。これはどうしたものだろうか。
「うーん……」
「ゆ、由佳……?」
そこで由佳は、繋いでいる方の手を胸元に持っていった。
すると当然のことながら、彼女の胸にある柔らかいものが俺の手に当たる。
ダブルデートの時も腕に当たっていたが、この感触は俺を狂わせるものだ。冷静でいられなくなってくる。
「いや……」
しかしその感触と同時に感じた由佳の鼓動に、俺は冷静さを取り戻す。
彼女は、とても落ち着いている。俺の傍で安心しきっている。鼓動からそれが伝わってきた。
だから俺も落ち着くことができたのだ。由佳のことが大切で愛おしくて、そんな彼女の安らか眠りを妨げたくなかったから。
「しかし、どうするべきだろうか……」
それはそれとして、これはまずい状況であった。
由佳が手を離してくれない限り、俺は動けない。この中途半端な状態で、夜を越さなければならないのだ。それは流石に辛いので、どうにかしなければならない。
ただ、この状況でできることは一つである。当然離れることはできないので、由佳に近づく、つまりは彼女と同じベッドで寝る以外はない。
「それは、無理だな……」
流石に意識のない由佳の隣にこっそり寝るなんて彼女に悪い。しかし、他に方法なんて思いつかなかった。
だから仕方ない。このままの状態で寝るとしよう。
「……これならなんとかなるか」
俺は由佳と繋いでいない方の腕を枕にして、眠る体勢を作ってみる。
ぐっすり眠るのは少々難しいような気はするが、なんとか眠れなくはなさそうだ。とりあえずこれで眠ってみるとしよう。
「しかしいい夢は見られそうな気はするな……いや駄目だ。そういうことは考えないようにしなければ……」
目を瞑ったことによって、俺は自らの手に当たる感触をより鮮明に感じていた。
意思が揺らぎそうになるが、それもなんとか抑え込むことができる。由佳の鼓動が、俺に安らぎを与えてくれたのだ。
「もしかして、俺は結構褒められてもいいんじゃないか……なんて言ってる場合ではないよな……ふう」
俺はゆっくりと息を吐いた。
なんだかんだ言いながらも、眠れそうな気がしてきた。由佳の温もりと鼓動によって、俺はかなり落ち着けているようだ。
「今度こそ、お休み、由佳……」
「ろーくん……」
「……」
由佳が寝言で俺の名前を呼んでくれているのに喜びながら、俺は自らの意識が段々と薄れていることに気付いた。
明日の朝が少々心配ではあるが、とにかく眠るとしよう。なるようにしかならないのだから、それは後で考えればいいことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます