第79話 許可を得たからといって遠慮なく見られる訳ではない。
「ただいま、ろーくん」
「あ、ああ、おかえり、由佳……」
お風呂から部屋に帰ってきた由佳を見て、俺は息を呑んだ。少し火照った彼女はなんだか色っぽくて、俺を妙な気分にさせてくる。
パジャマがショートパンツであるというのもその要因の一つであるだろう。そこから伸びる白いふとももは、非常に魅力的である。見てはいけないと思うのに、つい視線がそこに向いてしまう。
「えへへ、どうかな?」
「……とても似合っている。由佳は本当に可愛いな」
「……あ、ありがとう」
由佳に感想を聞かれた俺は、とりあえず素直に褒めておいた。
彼女は俺に可愛いと思われたいと言っていた。だから可愛いという言葉は包み隠さず言っていくべきだと思ったのだ。
由佳は、嬉しそうな顔をしている。ということは、俺の判断は間違っていなかったということだろう。
「隣いい?」
「もちろんいいとも」
一度確認してから、由佳は俺の隣に座った。彼女の熱が伝わってきて、緊張が高まっていく。
「……ろーくん、私のふともも見てたよね?」
「……何?」
そこで由佳は、先程までの俺の視線について指摘してきた。
確かに、俺が彼女のふとももを見ていたのは事実である。まさかばれているとは思っていなかった。すぐに目をそらしたつもりだったのだが、そうでもなかったのだろうか。
何はともあれ、これは非常にまずい。普通に考えて、女の子のふとももを見るなんて失礼だ。これはとにかく謝った方がいいだろう。
「……はい、見ていました。ごめんなさい」
「あ、ううん。別に謝らなくてもいいんだよ? ろーくんは、見てもいいんだから」
「え?」
由佳の言葉に、俺は変な声を出してしまった。
俺は見てもいい。それはどういう意味を持っているのだろうか。そう考えながらも、俺の視線は由佳の白い肌に向いてしまう。
許可を得た瞬間に視線を向けるなんて、俺の体はなんて欲望に正直なのだろうか。なんというか、自分が少し情けない。
「また見てるね?」
「あ、いや……」
「見てもいいって言ったんだから大丈夫だよ?」
「いや、大丈夫ではないさ……」
由佳に再度指摘された俺は、ふとももからなんとか目をそらす。
例え見てもいいと言われていても、やはり視線を向けるのは良くないだろう。なんとかして、その部分を意識しないようにしなければならない。
「……ろーくんっていつも顔を見て話してくれるよね?」
「え? いや、それは当然のことだろう。話す時に顔以外のどこを見るんだ?」
「あ、えっとね……その、色々と視線を向けてくる人がいるんだ」
「……そうか」
由佳の言葉が、俺は最初少し理解できなかった。
だがなんとなく理解できた。彼女が男子、いやもしかしたら女子の視線にすら悩まされているのだということを。
「まあ、俺は由佳の顔が好きだからな……」
「……え?」
「……あ、いや」
俺は思わず、本音を口走ってしまった。
しかし、これは良くないだろう。誤解されかねない発言である。いや、俺は実際に由佳のことが好きだから別に誤解でもないのだが、これで告白しているみたいに取られるのはまずい。そういうことは、もっときちんと言いたいからだ。
「その……由佳の顔を見るのが好きだということだ」
「……あんまり意味が変わってないよ?」
「あれ?」
俺の誤魔化しに、由佳は頬を赤らめながらそのように言ってきた。
顔が好きだというのと顔が見るのが好きということには、多少の違いがあるような気がするのだが、もしかしたらそうでもないのだろうか。
「でもそうだったんだね……私も、ろーくんの顔を見るの好きだよ?」
「そ、そうか……」
「でもね、私ろーくんにならどこを見られても嫌じゃないんだよ? 少し恥ずかしいけど、ろーくんには私の全部を見て欲しい……」
「む……」
由佳の驚くべき言葉に、俺は色々と考えていた。
これは流石に、何かしらの特別な想いを俺に向けてくれていると考えてもいい言葉なのではないだろうか。なんとも思っていない相手に、ここまで言うことはないだろう。
これはもしかしたら、チャンスなのかもしれない。俺はそう思って、改めて由佳の顔を見てみる。
「……由佳」
「……うん? ろーくん?」
「眠たいのか?」
「あ、うん。そうみたい……もっと起きてたいのに」
由佳は、かなり眠たそうにしていた。考えてみれば、それは当然である。何せ今日は遊園地でいっぱい遊んだのだ。疲れていない訳がない。
もしかしたら、今までの由佳の言葉は眠気によって発せられたものなのかもしれない。すごく大胆だったような気がするし、多分そうなのだろう。
由佳の心を結果的に覗いてしまうようなことになったのは申し訳ない。ただこれに関しては仕方ないことなので、あまり色々と考えないようにしよう。
「由佳……」
「んっ……」
俺は由佳の体を抱えて起き上がり、彼女をベッドまで誘導する。
いつも通りのいい匂いや柔らかさを感じるが、それはなんとか気にしない。
「ろーくん……」
「由佳、お休み」
「んんっ……」
俺は由佳をベッドに寝転ばせてから、その頭をゆっくりと撫でる。
色々と言いたいことはあるが、それはまた今度ということになりそうだ。安心したような顔で寝息を立て始めた由佳を見ながら、俺はそう思うのだった。
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