第78話 どうなっても(由佳視点)
湯船に浸かりながら、私はぼんやりと考える。さっきまでこのお湯に、ろーくんが入っていたのだと。
そこに私が入っているというのは、結構すごいことのように思える。その前提があるだけで、湯船に入っているのがただのお湯だと思えなくなってしまう。
「ろーくん……」
お母さんが来るまで、私はろーくんと結構いい雰囲気になっていたような気がする。
もしかしたら私の勘違いかもしれないけれど、あのまま告白される可能性だってあったかもしれない。それが結果的には中断してしまって、すごく残念だ。
でもあの状況で続ける訳にもいかなかったし、それは仕方ないことである。そもそもろーくんが何を言おうとしたのかは定かではないし、過度な期待は禁物だ。
「でもやっぱり……」
そうやって自分を言い聞かせても、やはり期待してしまう。ろーくんが好きだって言ってくれるんじゃないかって。
そう思っているからなのか、私の言動はさっきからちょっと大胆になっているような気がする。なんというか、今まで言いたくても言えなかったようなことが口から出てきてしまっているのだ。
「いけないよね……あ、でも」
期待し過ぎているため、もしも勘違いだったらとても恥ずかしいことになる。
でもよく考えてみれば、それならそれでもいいのかもしれない。舞や千夜からは、攻めた方がいいって言われているし、今くらい強気でも問題はないという可能性もある。
「というか、元々大胆にいくつもりだったし……」
そもそも今日のお泊り会は、色々とアピールする場だと考えていた。
ろーくんと一緒の部屋で寝泊まりするのもその一環である。もっとも、物置になっている暫定客室を片付けられていなかったのも事実ではあるのだが。
「じゅ、準備は必要だよね。心も体も……」
年頃の男女が同じ部屋で寝泊まりする。その意味は、私だってわかっている。
そうなってもいいと思っているから、ろーくんと同じ部屋で寝るのだ。というか、そうなって欲しいとさえいえるかもしれない。
体はすごく入念に洗っておいたし、万が一何かあっても大丈夫だとは思う。でもやっぱり少し心配だ。少しだけ恐怖はある。
「ろーくんは優しいし、絶対に大丈夫……」
もしも何かあったとしても、ろーくんは絶対にその優しさを失ったりはしない。それは確信できる。どんな時でも、ろーくんは私のことを大切にしてきてくれたから、それは間違いない。
でもそもそもの話、そんなに優しいろーくんの理性が崩壊することがあるのだろうか。それはなんというか、少し微妙な所だ。
「それに、やっぱりそういうことは付き合ってからの方がいいのかな?」
そういうことになった結果付き合う。その可能性も、私は考えていた。舞や千夜からも、積極的に誘惑していった方がいいとさえ言われていた。
でも今の心情的には、きちんと付き合った後の方がいいとも思ってしまう。告白しようとしている可能性もあるし、できればその方がいいような気がする。
「でもそれはそれとして、くっつきたいんだよね……」
基本的に私は、ろーくんとくっついていたいと思っている。ろーくんの温もりをできる限りの時間感じていたのだ。
多分、そういうことはろーくんを刺激してしまうだろう。今まではそうなった方がいいかもしれないと思っていたから、割と遠慮なくくっついていたけど、それもやめた方がいいのだろうか。
「私、欲張りだよね……」
私は湯船に口まで浸かりながら、自分の中にある色々な欲望を整理していた。
ろーくんとどうしたいのか、それが自分の中でまとまらない。
「……んぅ」
色々と考えてる内に、私の中ではある程度考えが固まってきた。
よく考えてみると、ろーくんとならどうでなってもいいと思ったのだ。
別にそういうことになってもいいし、多分なったらなったで喜べると思う。そういうことをしたいという気持ちは、もちろん私の中にもあるし。
告白されたとしたら、それは一番いい。ろーくんと恋人になれるのなら、万々歳である。それが私の一番の望みだ。
「何もなくても……まあ、それはそれでいいような気もするし」
何も起こらないという可能性もあるけれど、それはそれで問題はない。ろーくんと普通にお泊り会ができるだけでも、私は充分嬉しいからだ。
だから特に何も考えず、いつも通りの私でいた方がいいような気がする。
もちろん色々と準備をしておく必要はあるだろう。ただそれに関しては多分問題はない。心の準備も体の準備ももうできている。
「楽しまないと損だもん。せっかくのお泊りなんだから……」
私はゆっくりと立ち上がる。
お風呂上がりの私を見て、ろーくんはどう思ってくれるだろうか。ドキドキしてくれた嬉しい。
「私もドキドキしたしね……」
ろーくんは既にお風呂に入って、私の部屋で待っていてくれている。お風呂上がりのろーくんはなんだか少しいつもと違う感じだった。正直とてもドキドキした。
そんなろーくんとこれから何をしよう。そんな風に私はろーくんと過ごせる夜を楽しみにするのだった。
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