第69話 ダブルデートの始まり(由佳視点)

「いやぁ、待たせてしまったかな?」

「いいや、俺達も今来た所だ」


 駅前でろーくんと一緒に待っていると、江藤君と穂村先輩が現れた。

 ろーくんが言っている通り、私達も先程ここに辿り着いたばかりである。まった時間は五分にも満たないと思う。


「えっと……まずは自己紹介からした方がいいかな?」

「あ、そうですよね……」


 穂村先輩は、恐る恐るといった感じでそのように言ってきた。

 私と穂村先輩は、初対面である。お互いのことを知らない訳ではないが、こうして面と向かって顔を合わせるのは初めてなのだ。

 だから、穂村先輩は警戒しているのだと思う。それは今まで何度も経験したことなどでわかっている。


「私は、瀬川由佳っていいます」

「ああ、話は聞いているよ……私は穂村美冬。一応生徒会長である訳だから、瀬川さんも私の姿くらいは見たことがあるかな?」

「あ、はい。美人でかっこいい先輩だって思ってました」

「え? あ、そうかい……それはありがとう」


 私の言葉に、穂村先輩は少し照れていた。その表情に私も思わず照れてしまう。

 やっぱり、穂村先輩はすごく美人である。照れている表情もとても可愛いし、同性の私でも見惚れてしまう。


「……まあ何はともあれ、これからよろしく瀬川さん」

「あ、はい。よろしくお願いします……あ、それと私のことは由佳って呼んでください」

「それなら私も美冬でいいよ。改めてよろしく由佳さん」

「はい、美冬さん」


 美冬さんの雰囲気は、最初より柔らかくなったような気がする。少し話しただけだが、私に対する警戒は解けたみたいだ。

 そのことに私は安心する。せっかくのダブルデートなのだから明るく楽しいものにしたい。そのためにも美冬さんとは打ち解けておきたかった。多分これなら大丈夫だろう。


「さて、二人の自己紹介も終わって早速だけど、遊園地に向かうとしようか?」

「ああ、そうだね。移動しながらも話はできるしね……由佳さんと藤崎君もいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「ええ、行きましょう」


 江藤君と美冬さんの言葉に、私とろーくんは頷いた。

 今日の目的地は遊園地である。私とろーくんにとって、そこは色々と思い出深い場所だ。

 前回二人で行った時ももちろん楽しかったが、私の失敗で楽しめなかったアトラクションも多い。今日はそれも合わせて色々と楽しみたい所である。


「……うん?」

「美冬姉? どうかしたのかい?」


 そこで美冬さんは、顎の下に手を当てて考えるような仕草をした。

 その視線は、明らかに私とろーくんの方に向いている。より具体的には、私達の手元に。


「え? あれ?」


 美冬さんに続いて、江藤君も驚いたような表情をした。その視線も、私達の手元に向いている。

 それらの視点によって、私は二人が何にそんな反応しているのかを理解した。多分、私とろーくんが手を繋いでいることに二人は驚いているのだ。


「ろーくん? その手は……」

「む、いや、それは……」


 江藤君からの質問に、ろーくんは言葉を詰まらせた。この行為の説明が、すぐには思い浮かばなかったのだろう。

 自然と手を繋ぐようになったけど、私達は残念ながら別に恋人同士という訳ではない。一般的には、このようなことをする関係性ではないのだ。

 だから、ろーくんも答えに困っているのだろう。助け船を出したいが、私も上手く答えが出て来ず言葉を詰まらせることしかできない。


「……まあ、これは幼い頃からの癖のようなものだ」

「癖?」

「ああ、いつも手を繋いでいたからな……」

「あ、うん。そうだね……久し振りにあったからかな? その癖が治っていなかったっていうか……」


 ろーくんの言葉に合わせて、私はそのような主張をした。

 ろーくんが言っている通り、これが幼い頃の延長であることは間違いない。私は多分もっと色々な想いを抱えているけど、江藤君と美冬さんにする説明としては、これが一番いいだろう。

 でも、私とろーくんは決してそういう関係ではないと強く認識して、少し苦しかった。やっぱり、このままではいけないような気がする。どのような結果になるとしても、私は前に進まなければならないのかもしれない。


「……美冬姉、僕達も手を繋がないか?」

「え?」

「ほら、昔みたいにさ。手を繋いで一緒に出掛けるのもいいと思うんだ。ろーくんや瀬川さんも、こうして手を繋いでいることだしさ」


 そこで江藤君が、少し恥ずかしそうにしながら美冬さんに提案した。

 付き合ってから二人は少しだけぎくしゃくしていると聞いている。それを改善するのが、今回のダブルデートの目的だ。

 そのために、江藤君は一歩踏み出したのだろう。それが私達の影響であるというなら嬉しい。私達が来た意味があったと思えるからだ。


「……そうだね。それじゃあ、晴君」

「ああ……」


 私達の目の前で、二人はゆっくりと手を繋いだ。

 その光景に、私とろーくんは顔を見合わせる。お互いに笑顔だった。その理由はわかっている。二人が仲良さそうにしているのが、嬉しかったのだ。

 なんとなく、江藤君と美冬さんは大丈夫なような気がする。今回のダブルデートで二人はいい関係になれそうだ。

 それなら問題は、私の方である。今回のダブルデートでろーくんとの関係をどれだけ変えられるかはわからないが、とにかく頑張ってみよう。

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