第45話 月曜日が楽しみだと思えるようになった。
月曜日というのは憂鬱な日である。今週もまた休みが終わり一週間が始まってしまった。
少し前の俺ならば、そのような考え方をしていただろう。だが、今は月曜日という日も割と嫌いではない。学校に行けば、由佳に会えるからだ。
由佳と会えるというだけで、嫌だった月曜日でも楽しく登校できるのだから、俺はとても単純であるといえるかもしれない。だが、単純でも学校に行くことが楽しみなのは悪いことではないだろう。
「ろーくん、少しいい?」
「由佳?」
そんな月曜日の授業が終わった放課後、由佳が俺に話しかけてきた。
彼女に声をかけてもらえるだけで、俺の心は跳ね上がる。だが、俺はすぐに冷静になった。由佳が少し不安そうな顔をしていたからだ。
「……何か問題でもあったのか?」
「あ、ううん。問題、っていう程のことじゃないんだけど……」
「うん?」
「ろ、ろーくんに聞きたいことがあって……」
由佳はなんというか、恐る恐るといった感じだった。何か俺に聞きにくいことを聞こうとしているということだろう。
もしかして、俺の過去に関することでも聞こうとしているのだろうか。大まかに色々とあったことは既に由佳に話しているため、由佳も慎重になってくれているのかもしれない。
はたまた、月宮のことで何かがあったのだろうか。何かしらの進展があって、俺に話そうとしてくれているという可能性もあるだろう。
「涼音のことなんだけど……」
「水原のこと……?」
予想外の名前が出てきたため、俺は少し驚いてしまった。
しかし、心当たりがない訳ではない。昨日の会話的に、水原が由佳達に趣味のことや俺のことを話したとしてもおかしくはないだろう。その結果、由佳が俺に話しかけてくるという流れなら理解することができる。
「涼音がね、今日私にろーくんは良い人だねって言ってきたんだ」
「ほう?」
「ろーくんと涼音って、そんなに関わりがなかったよね? 何かあったの?」
「あ、えっと……」
水原は、随分と抽象的なことを由佳に言ったようだ。
当然のことながら、俺と水原が趣味関係で親しくしていることなんて由佳は知らない。水原が趣味を秘密にしたいと思っているため、話すことはできなかったのである。
そんな由佳からすれば、水原の言ってきたことは気になるだろう。まったく訳がわからないのだから。
「まあ、色々とあった訳ではあるんだが……」
「色々?」
俺は少し困っていた。水原の趣味のことを俺が勝手に話す訳にはいかないし、どう説明すればいいのだろうか。それがわからない。
そもそもの話、今まではぼろが出るだろうから何も言わなかったのだ。だから、良い説明の方法なんて思い浮かぶ訳がないのかもしれない。
「み、水原は今何をしているんだ?」
「あ、それはね、多分千夜と話していると思う」
「月宮と?」
「うん。先週くらいに話したよね? 二人がちょっとぎくしゃくしてるってこと。実はあれが尾を引いていて、二人の関係が上手くいっていなかったんだけど、涼音はそれを解消しようとしているみたい」
「……そうか」
由佳は事情を説明してくれたが、それは俺が既に知っている情報であった。
なんというか、少し罪悪感が湧いてくる。もしかして、俺は由佳にとてもひどいことをしているのではないだろうか。
隠し事というのは誰にでも多少はあるだろう。だが、由佳の友達とある程度親しくしていることを由佳に秘密にするというのは、なんだかとても悪いことであるような気がする。
とはいえ、やはり水原に関することを俺が勝手に話してはならないだろう。それは水原と約束したのだし、彼女に対する裏切りになる。
しかし、このまま全てを秘密にしているというのもよくないだろう。それは由佳と水原の関係にさえ影響する可能性もある。
「……実は水原とはひょんなことから、少々親しくさせてもらっている」
「……そ、そうなの?」
「ああ、ただその知り合い方が水原の名誉に関わることであったため、今まで黙っていたんだ。すまなかった」
色々と考えた結果、俺は由佳に素直に事情を話すことにした。
当然、水原の秘密については伏せるつもりだ。その上で全てを話すというのが、多分一番丸い結論であるだろう。
「あ、ううん。謝るようなことじゃないよ……事情があったということなんだね?」
「……水原の秘密を俺が偶然知ってしまったんだ。それ以上は、俺の口から言うことはできない。それが水原との約束だからだ」
「約束……うん。それならその内容は聞かない」
そもそも、水原が俺のことを話したということは、彼女も由佳に秘密を話すつもりであると考えられる。
そうでなければ、わざわざそのようなことは口にしないだろう。ただ、順番的に先に話をつけなければならない人物がいた。そういうことなのではないだろうか。
とはいえ、秘密を話す時に俺のことを言えばよかったとも思ってしまう。一体、どういう流れで水原は俺のことを口走ったのだろうか。
「由佳、一つ聞いておきたいんだが、水原はどういう流れで俺のことを口にしたんだ?」
「え? あ、それはね……わ、私がろーくんのことを褒めたら、涼音が同意してくれて……」
「そ、そうなのか……」
由佳の言葉に、俺は少し嬉しくなった。彼女が俺のことを褒めてくれたという事実がわかったからだ。
しかし、そちらに気を取られていてはいけない。きちんと、自分の質問に対する答えの方を考えるべきだ。
「多分、今思えばあれは思わず言っちゃったって感じだったんだと思う」
「思わずか……まあ、水原も秘密があるし、普通に考えたら言わないか」
「そうだね。そうだと思う……でも、それってろーくんが思わず言っちゃうくらい、いい人だっていうことだよね?」
「え?」
由佳の理論に、俺は面食らってしまう。だが、確かにそういう考え方もできるのかもしれない。
それ程までに水原から評価されているというのは普通に嬉しいことだ。ただ、少々過大評価のような気もする。
単純に、タイミングが合ったということだろうか。つい先日、俺は水原の相談に乗った。あれがあったため、平常時よりも水原の俺に対する評価が高くなっていたのかもしれない。
「……あ、千夜からメッセージが来てる」
「ほう? 話し合いが終わったのか?」
「……うん。無事に話し合えたみたい」
そこで、由佳は笑顔で俺にそう伝えてきた。
どうやら、水原は月宮と無事に分かり合えたようだ。それなら良かった。俺もなんだか笑顔になってしまう。
「……あ、ろーくん、今日の放課後空いてる?」
「え? ああ、まあ、別に空いてはいあるが……」
「それならさ、一緒に来てくれない? 千夜がね、今回迷惑をかけた人達に謝りたいって言ってるんだ」
「何?」
「舞から、色々と聞いたみたい……」
「ああ、そういうことか。まあ、それなら構わないが……うん?」
由佳から聞かされた月宮からの提案に、俺は少し考えることになった。
家出の件についても話ができるようになったというのは、いい傾向であるとは思う。それ自体は、喜ばしいことである。
しかし、今回迷惑をかけた人達とは誰のことを指しているのだろうか。それが少し気になってしまった。
「由佳、月宮は具体的に誰を呼んでいるんだ?」
「え? えっと……私とろーくんと涼音と舞だね」
「……なるほど」
自らの予想が当たり、俺は頭を抱えることになった。そのメンバーはつまり、四条一派の女子+俺という構成であったからである。
無論、それは今回月宮が迷惑をかけた対象であるということは間違いない。だが、偶然とはいえ完成された女子のグループに俺一人でついて行くなんて、どう考えても気まず過ぎる。
「由佳、月宮に頼みがあるから伝えてもらってもいいか?」
「頼み? うん、別にいいけど……」
「一人、助っ人を呼んでもいいか、聞いてみてくれ」
「あ、うん……」
そこで俺は、由佳を通して月宮に頼むことにした。
ここは、あいつに頼らせてもらうことにしよう。きっとあいつなら、こういう時に力を貸してくれるはずだ。
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