第36話 幼馴染のエプロン姿はとても可愛い。
「それじゃあ、行こうか、ろーくん」
「ああ」
俺は、由佳の後をついて行く。
彼女の家のことは、俺も大体知っている。何度もお邪魔したことがあるからだ。
とはいえ、数年の間で部屋の配置等は変わっているかもしれない。もっとも、今から行く台所の場所はほぼ位置が変わる訳がない場所ではあるが。
「昔は、ろーくんと一緒にご飯とか食べてたよね……」
「ああ、そうだったな。由佳のお母さんの料理は美味しかった」
「今でもお母さんの料理は最高だよ……あ、今日も食べていかない?」
「いや、それは流石に……」
由佳の提案に、俺は言葉に詰まってしまう。
夕食を頂く。それは流石に厚かまし過ぎるような気がする。
由佳のお母さんの料理に興味がない訳ではないが、やはり悪いと思ってしまう。
「お母さんもお父さんも、ろーくんとゆっくり話したいって言っていたし、駄目かな……?」
「ま、まあ、そこまで言うならご馳走になろうかな……ああ、でも由佳のお母さんやお父さんがいいと言わなければ……」
「言わない訳ないよ?」
「そ、そうか……」
由佳の上目遣いに、俺はその提案を受け入れることにした。
なんというか、少し緊張してしまう。由佳のお母さんやお父さんと俺はどのような話をすればいいのだろうか。
二人とも慣れ親しんでいた人物であるはずなのだが、色々な事情によって昔のように話せるような気がしない。本当に大丈夫なのだろうか。少々不安である。
「さてと、それじゃあ、ろーくん、そこに座って待ってて」
「あ、ああ……」
そんな話をしている内に、俺達は台所に着いていた。
俺は由佳に言われた通り座りながら、辺りを見渡す。そこには記憶の中と違わぬ台所が広がっている。
「よいしょっと……ろーくん、どうかな?」
「……え?」
由佳に声をかけられて彼女の方を向いた俺は、思わず固まってしまった。
彼女は制服の上から、その髪の色と同じピンク色のエプロンを身に着けている。
「とても似合っている……」
「そ、そうかな?」
「え? あ、ああ……」
思考が固まった俺は、自然と思っていたことを口にしていたようだ。
正直、そのエプロンは由佳に滅茶苦茶似合っている。可愛くて仕方ない。
いっそのことこのまま嫁に来てもらえないだろうか。俺はそんな気持ちの悪いことを思っていた。こちらが口から出ていなくて本当に良かったと思う。
「あ、飲み物とかいる? オレンジジュースがあるよ」
「も、貰ってもいいか?」
「もちろんだよ……はい」
「ありがとう」
俺は、由佳が入れてくれたオレンジジュースを飲む。
とりあえず、一度冷静にならなければならないだろう。そうしなければ、また余計なことを言ってしまいそうだ。
オレンジジュースは、よく冷えていて美味しい。そのおかげか、段々と落ち着けてきた。だが、落ち着いて見てもやはり由佳は可愛い。エプロンがとても似合っている。
「えへへ、今日はろーくんと長い時間一緒にいられそうだね」
「ああ、確かにそうなるな」
由佳は、ホットケーキの材料を出しながら俺に話しかけてきた。
その手際だけ見てもわかるが、料理には慣れているようだ。もっとも、それはお弁当を作ってきてくれた時にわかっていたことではあるが。
「あのね、ろーくんさえ良ければ、明日も一緒にどこか行かない?」
「明日か? ああ、それはもちろん構わないが……どこに行くんだ?」
「ああ、そうだよね。前回の反省を活かして、ちゃんと行き先は決めておかないと……」
由佳からの誘いは、正直とても嬉しかった。とても心が躍っている。
だが、行き先に関しては冷静に考えるべきだろう。それをよく考えなかったため、前回は由佳を悲しませてしまったのだから。
前提としてあるのは、由佳と一緒ならどこだって楽しいということだ。前回もあまりアトラクションの類には乗らなかったが楽しかったので、それはわかっている。
その上で、由佳とどこに行きたいか。それを俺は考える。
「ちなみに参考までに聞かせてもらいたいんだが、由佳は四条達とどこに遊びに行ったりするんだ?」
「色々な所に行くよ?」
「条件を絞るか。そうだな……飲食店を除いて、皆でよく行く場所はどこだ?」
「うーん……カラオケとかかな?」
「カラオケ……」
一応聞いてみたが、由佳が普段からよく行く場所は俺にまったく馴染みがない場所だった。
由佳とカラオケなんて行っても、俺は人前で歌なんて歌ったことがない。恥しかかかないだろうし、やめておいた方がいい気がする。
「ろーくんとカラオケも楽しそうだね?」
「いや、恥ずかしながらカラオケなんて行ったことがない」
「え? そうなの?」
「ああ……生憎そんな風に遊ぶ友達はいなかったからな……」
「……そっか」
俺の言葉に、由佳は手を止めてしまった。
その理由は、わかっている。俺が余計なことを言ってしまったからだ。
とはいえ、由佳には既に俺の過去を話している。その理由をぼかしても仕方ないと思ってしまった。
「それなら、行ってみようよ」
「それは……」
「行ったことがないなら、行こうよ。もしかしたら、気に入るかもしれないよ?」
「……そうだな」
「よし、それなら決まりだね」
「ああ」
俺は、由佳の言葉にゆっくりと頷いた。
確かに、彼女の言う通りである。行ったことがない場所だから無理だと俺は思っていたが、いつまでもそれでいいとは思えない。
由佳は、俺と離れている間に人間的に成長した。だから、俺も成長しなければならない。色々なことを経験していくべきなのだろう。
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