第4話 この世界

 教会で目覚めた、異世界生活二日目。

 教会でダラダラしていても仕方がないので、キゼトの街を見ようと思い、身支度をした。


 身支度を終える頃、モリが様子を見に来てくれたので、街を案内してもらう事にした。

 会ったばかりなのにずいぶん世話を焼いてくれる。

 少し気持ち悪いけど、きっといい奴なのだろう。


 異世界生活を始めた城壁の街・キゼトは、セノべという国の西端にある。

 北は山を越えれば異国の地、南は海、街の周りと海との間は草原地帯だが、それ以外は森に囲まれている。


 街が城壁に囲まれているのは、もちろん侵入者に対する警戒の為である。

 その侵入者とは、主に魔物を想定しているという。

 キゼトの辺りは魔物多発地帯なのだそうだ。


 魔物多発地帯と言っても、草原地帯や街道沿いは、明るい時間帯であればたまに現れる程度だという。

 しかし、森の中は魔物の巣窟と言うべき遭遇率であり、夜間はその森から草原地帯や街道沿いに出てくることも珍しくないという。

 元の世界の、サバンナの野生動物達もそんな感じなのではないだろうか。

 

 キゼトは賑やかな街だ。

 北の異国との交易の拠点であり、また、南に港町を侍らせているだけに、海洋諸都市と内陸諸都市の交易の中継基地としても大きく機能している。

 大きな商館もあれば個人商店もある。


「ニグルさん、この先どうされるのです?どんな仕事をしたいとお考えなのです?」

「せっかく今までと違う世界で新しい人生を生きていくんだから、冷めた目で書類見るのとかはもう嫌かな」

「ですよねー。冒険者になる人が多いですよ!転移者は!異世界ファンタジー!」


 やはり、異世界に転移すると、浮かれてそういう選択をする奴が多いのか。


「まあ、普通の職業に就くのが難しいからやむを得ず、というのが現実なのですけどね。不審者と言っても過言ではない転移者をわざわざ雇わなければならないほど、この世界は人手不足では無いのですよ・・・」


 嫌な事を聞いた。


「隣の国だと、奴隷身分で剣闘士やらされてる人がいるって話も聞きます・・・」


 何だその理不尽な扱い。

 自由を与えなければ得体の知れない転移者を管理しやすいという考えなのだろうか。



「ところで、冒険者って何で収入を得るの?」

「色々と手段はあるのですが、基本的には、とにかく魔物を倒すのです!魔物の皮や骨は結構高く売れるのですよ。服や家具、色んな武器や道具の材料になりますし。僕はそんな感じで、生きてます!」

「リスク背負って体で稼ぐのかー。そりゃそうかー。でもめんどいなー」

「コツコツと弱い魔獣を狩り続けててもそれなりに生活できますよー。僕はそんな感じで、生きてます!」

「その体で戦えるの?」


 モリは若いわりにだらしない体だ。お菓子大好き、運動と魚と野菜は大嫌い、お肉なんて無くても焼肉のタレがあればご飯何杯でも食べれます!という感じの見た目だ。


「この辺りは魔獣多いですけど、強いのは滅多にいないのですよ!パーティー組んで武器防具揃えてちゃんと戦えば、割とリスク少ないです!」


 強くて寛大なパーティーに潜り込めれば、割とリスクも労力も少なく済みそうだ。




 モリによるキゼト案内の途中で、朝昼兼用の食事を摂る為にクレープ屋に入った。


 キゼトにはクレープ屋が多い。

 日本ではデザートのイメージが強いクレープだが、この世界では、デザートとしてより、日常食として定番のようだ。

 フランス人の転移者が持ち込んだのだろうか。


 元の世界の日本と違って、この世界なら男二人でもクレープ屋に違和感なく入れる。



「なぁモリ。くどくてごめんだけど、ガソリンに代わる燃料無いのかな。今タンクに残ってるガソリンが無くなったら、俺の愛車が本当に変な荷車になる」


 鶏肉のトマトソース煮込みを包んだクレープを食べながら、ガソリンの話をぶり返した。


「特に思い当たらないですけど、昨日言った通り、燃料代わりと言えば魔石ですかねー。魔石を使った便利な魔道具を作って売っている、クオーターエルフの女性がいるので、相談してみるといいかもですね!その人、天才魔法使いという噂なのですけど、何故か魔道具作りしかしていない不思議な人です。そして・・・合法ロリでーす!」


 モリのテンションが急に上がった。

 モリの口の中から、元クレープのぐちゃぐちゃした物体が飛んできて、俺の顔に付着した。

 今食べているクレープはモリの奢りだ。だからここは我慢だ。



「何なんだよ合法ロリって。元の世界とこの世界では倫理観や法律が違うって話?」

「違います!人族より寿命が長い種族は、外見的成長も遅いので、人族である僕達の目から見たら未成年なのに、年齢的にはしっかり成人だったりするのです!それが合法ロリなのです!」


 モリは、自慢げに口角を上げて、透明感のある、眩しい笑顔を見せた。

 元の世界に居続けていたら、モリはいずれ犯罪者になっていたのかも知れない。


「そうだ!そのクオーターエルフの女性は、人の潜在スキルや魔力量を見ることができるのですよ!」

「なるほど、冒険者としてどう生きて行けばいいかわかるんだな」

「ご名答!では早速訪ねましょう!」


モリはこちらの返事も聞かず、食いかけのクレープを口に詰め込み、会計を済ませた。

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