第141話休日、一人食べ歩き

 ウェールズ屋台通り 

 

 自分で店を出す事を望んだ孤児の子に屋台は任されている。 

 

 今屋台で売られているメニューはからあげ、やきそば、タコ焼き、お好み焼き、漁港の未利用魚を利用した一本焼きなどである。 

 

 どの屋台も非常に好評で売り上げもいいが、八百万でもやきそばやからあげなどは販売する事があり、メニュー的にかぶるのだが、屋台は屋台、八百万は八百万と客は別々に考えるので、どちらも好評である。 

 

 やきそばにいたっては、八百万は太麺を使ったりと変化させることが出来れば変化させるが、タコ焼きやお好み焼きなどあまり弄りようがないものに限っては極力店で出す事はひかえるなどしている。 

 

 八百万では基本的には弟子を募集してなどはいない。 

 

 何故か?店を初めてどのくらいだろうか?おそらく冬も経験した事から一年はたっていると思う。 

 

 色々な料理を作ってきて、自分的にも料理の腕はあがったと思うし、スキルや加護の恩恵で料理人並み色々と引き上げられていると思うが、それでも自分はまだまだ弟子なんてとる余裕なんてない程未熟だと思って仕事をしている。 

 

 一人前にはまだまだ程遠い、だからこそ毎回の料理には100点120点とぬかりなく常に完璧を求め、丁寧に丁寧に遅くなっても丁寧にを第一に慎重に仕事をしている。 

 

 100皿中99皿成功では意味がないのだ、100皿中100皿完璧で丁寧な仕事をしなきゃいけない。 

 

 素人料理人にそれは求めすぎじゃないか?なんて思うだろうか?99皿完璧なら一皿くらいミスがあってもしかないんじゃないかと思うだろうか? 

 

 自分にとっては100皿の内のたった一皿のミスかもしれない、でもお客様として考えたら?そのたった一皿のミスが初めてのお客様だった場合は? 

 

 折角始めて来たのに、もしくは初めて食べる料理なのに、一番最初に食べた皿が料理人がミスした皿だったなんて、気づかないかもしれない、わからないかもしれない、でももしそれを知ってしまったら、お客様はきっと落胆してしまう。 

 

 信用を失ってしまう。 

 

 専門店の料理人、毎日毎日同じクオリティの物を上げ過ぎず下げ過ぎず一定のクオリティを維持して出し続ける。 

 

 職人として当たり前の事であり、当然の常識である、この一定のクオリティを維持し続ける。 

 

 これが実は非常に難しい。 

 

 毎日天気も違えば、体調で味覚がぶれる時だってある。 

 

 守破離と言う言葉がある、守は基本を守り続ける事、破は基本を破り発展させる事、離は基本や応用から離れ独創的に個性を発揮する事。 

 

 この段階で自分を表現するなら、自分はまだまだ守であり、一部が破の状態だと言える。 

 

 今までの料理、もしも専門にしている料理人が異世界で離を表現しつつ作ったら?きっと俺なんか足元にも及ばない領域の美味を発揮すると思われる。 

 

 寿司職人が、ラーメン職人が、天丼が、牛丼が、中華が、懐石が異世界の未知なる食材で、完全なる料理人達によって究極の進化を見せる。 

 

 自分に今それができるか?今の俺は基本も基本従来の作り方を真似しているレベルであり、基本を破る事も多々あるが、それでも離の独創性や個性を発揮できるレベルにはたっしていない。 

 

 魔道具やスキルで下ごしらえや皮むきなんかの大量の仕込みからは解放された。 

 

 その分破は進んだと思う。 

 

 そんな自分が弟子をとるなんてとても考えられなかった。 

 

 出来る事は基本のレシピを掲載して、こちらの世界の既存の料理人に異世界での調理法をアプローチする事によってアステリオスの様な我の強い料理人は、そこから自分の料理へと進化や変化を見せる事だろうと考えていた。 

 

 人気な料理の基本的な調理方法などはすでにレシピ化している。 

 

 それによって自分の店、八百万と言う店の希少価値は下がると思っていた。 

 

 ところがだ。 

 

 レシピ通りこちらの料理人が作ったのにもかかわらず、お客の反応は八百万の方が好きだと言う声だった。 

 

 どうしてだ?レシピは完璧で、こちらの料理人は俺より料理の腕はきっといいはずなのに?なんでもんな八百万を俺の店を選ぶのだろうか?安いからってのももちろんあるかもしれない。 

 

 休日にこっそり、天丼を売っている店に入って食べた事がる。 

 

 その店で天丼を食べた時、俺の脳内に感じた事はコンビニの天丼とか持ち帰りのふやけた天丼とかじゃなく、もっと家庭的ないわゆる専門店で食べた天丼とかじゃなく、自炊初めての高校生か大学生の自分が、見様見真似で作ったかのような天ぷらの味だった。 

 

 天ぷら生地のさっくりとした感じではなく、ホットケーキミックスでもつけて揚げたかのようなもったりとした重い生地、どちらかといえばエビの入ったアメリカンドックの様な感じに頭が???でいっぱいになった。 

 

 どこをどう解釈すれば、天ぷら生地がアメリカンドックになる??? 

 

 そうして色々な店を食べ歩きしてみれば、本当にレシピ通り作ってるのか?って店が大量に溢れていた。 

 

 もちろん中には確かにレシピ通り作ってるかもしれないけど、こりゃいかんぜといったものも多く、おっと思わせる店はなんかは片手で数店だけ。 

 

 ウェールズ一と名高いアステリオスさんの店でウナギの蒲焼を食った。 

 

 うん?おっ!こりゃ悪くなっっっっっっっつっつっつっつっつっつっつっつくっさあぁ!ドブ?どろ??微妙に微かにくっさい風味が後味にドンときた。 

 

 いまでこそ美味い蒲焼が店先で売ってるアステリオスさんの店ですら、初めはこんな出来だった。 

 

 今でこそ美味い蒲焼を売っているアステリオスさんの店だが、蒲焼ならまだまだ俺の方が美味いと言う自信も今でも俺にはある。 

 

 こういった少し足りないって店が出来ては消え、出来ては消えを繰り返し、他国で人気な店がウェールズに上陸してはまあまぁの成績を残しては加速度的に消えていった。 

 

 今名店として生き残っているのは、自分で言っていて恥ずかしいが八百万とアステリオスさんの店だけである。 

 

 アステリオスさんのイールのトマト煮やハンバーグなんかは八百万と同じ大行列を作る程大人気である。 

 

 ちょっとして考えてみて、確かにこの世界って肉をただ焼いただけでも美味くて、塩も特別だから塩ふっただけでもご馳走になる世界なんだったっけ?と思い出した。 

 

 一般人の中では下手に料理するより、焼いてそのまま食うのが一番うまいって言葉があるくらいの世界である事を忘れていた。 

 

 なるほどなぁ、だからみんな八百万にきてくれるんだなと改めて納得した。 

 

 弟子をとるかまだわからないけど、教えるなら多分孤児達が一番初めだろうとまた新たにそう思った。

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