第140話エーテル・フォン・ユグルドラシア 牛丼

 八百万 牛丼の日 

 

 牛丼、安く、早く、美味い!と三拍子が揃った国民食、その歴史は1962年の牛鍋屋まで遡ることが出来る。 

 

 明治の文明開化により、牛肉を食べる習慣が広まり、鍋から始まり米と一緒に味わいたいと思われた牛肉は丼へと変化した。 

 

 それでも最初の頃は一般人よりもワンランク下の下層の人間が食べるものと印象付けられていた牛丼も、意識の改革が行われる。 

 

 関東大震災である。 

 

 大震災を受けて、微かに立ち上がった国民を支えたのは、多くの屋台、露天であり、そして多くの牛丼屋達だった。 

 

 安く、早く!そして何より美味い!体も心も、そして財産すらも砕かれた日本人の腹を満たし支え、次第にその味は上級国民の元へも運ばれ、愛好家を増やしていった。 

 

 青空の下、天を見あげて食った牛丼の味、再び立ち上がる為に、歩き出す為に力をくれた牛丼の味。 

 

 長い時をかけて市民権を得た牛丼は、ついにフランチャイズ化され、吉野家、松屋、すき屋、養老の滝、なか卯、らんぷ亭と覇を唱える店が現れ。 

 

 現代日本、この不況であり物価高でもある今現在ですら並盛470円と言う安さで国民を支え続けている。 

 

 あえて硬いといわれるスジ肉を使用してとろとろになるまで煮込んだ牛丼から、通常の肉、脂身などを使用している牛丼へと移行したり変化も伴っている牛丼。 

 

 牛筋を使った昔ながらの牛丼じゃなきゃ、牛丼じゃないなんて言う人もいるかもしれない。 

 

 そんな今もなお愛され続けている牛丼は、異世界でも人々に愛され続けている。 

 

 八百万特製牛丼、牛型魔物のスジ肉を集め徹底的に柔らかく煮込んだ牛丼は、脂身ではなくコラーゲンのぷるぷる感も味わえる、飲み込む時の快感度が高い気持ちの良い食べ物である。 

 

 汁だく、ネギだく、卵にチーズ、おろしポン酢、青ネギ、などなどカスタマイズは無限大で銀貨5枚でお替わり自由な牛丼の日は、まさに戦争である!!! 

 

 小さい訳でもない丼で2~3杯なんかぺろりの異世界人、無限大のカスタマイズをどんどん楽しみ楽しみ尽くすお替わりの波。 

 

 日本文化でもある丼の日は、いつだって戦争である。 

 

 エーテル・フォン・ユグルドラシア

 

 ウェールズのエルフ領領主であり、エルフ国の国王の妹でもあり、ハイエルフのヒルデガルドやシグルドリーヴァなどとも仲が良く、八百万開店初期からウェールズに潜伏している姫の一人である。 

 

 だれが言ったのか「エルフは生臭ものは食わない」と我々エルフを知らない人間の多くはそういう。 

 

 エーテルは怒り顔で中指を立てた。 

 

 馬鹿野郎!!!ふざけんじゃねぇ!森で肉食わねぇで!どうやって生活するんじゃ!ぼけぇ!鹿も熊も猪も森の生き物だぞ!なんだったら兎だって食うわい!あほが! 

 

 牛とかにわとりとか卵とか、家畜って概念がないだけで普通に食うわ!何が肉食わないからあんにも種族的に美しく高潔なのよ!だ!馬鹿言ってんじゃねぇ!!! 

 

 時にはそういったエルフの幻想を壊さない様に振舞わなければいけなくなる時だってあるエルフ、姿を隠して肉料理有名店の列に並ぶなんてあたりまえである。 

 

 そもそも私達は魔力量と精霊種への親和性が高いってだけで、他は人間とたいしてかわらないわ!寿命も長いけど。 

 

 人間なら当たり前の様に栄養として取らなきゃいけないタンパク質や脂質などなど肉を食わなきゃ得られない栄養だってある。 

 

 むしろ私達は肉を食う様に神に作られたのに、それを自分達の勝手な思想で食べない様に生活するなんて不自然だし神への冒涜だわ。 

 

 私達はそうあれと言われたとうり生きるそれだけよ。 

 

 そう望まれて、そう作られたのだから。 

 

 今日は八百万牛丼の日!!エルフも大好きな米に!とろとろのお肉をどっさり!玉ねぎまでとろとろでこんな食べ物嫌いな人間いんの?って食べ物! 

 

 八百万の牛丼は、牛型魔物のスジ肉がちょうどっさり入っている、安い牛から超高級な牛!幻想級のタウラスのスジ肉までもが入っている。 

 

 これらが絶妙に煮込まれ、均等に混ざり合っていくと高級な牛だけでは出せない、また安い牛だけでも出せない、二段三段くらいぶっとばした別次元のベクトルの美味さに跳ね上がるのである。 

 

 本能にある暴食!これをガンガンに揺さぶり、優雅な人間ですら心の奥底に存在する原始の野生の自分が飛び出て来る本能をがっつり揺さぶる美味さ! 

 

 心地よい!気持ちよい!そう気持ちがいいのだ!快感なのだ!飲み込む瞬間にくる体への震え、快感、美味い!美味すぎるのだ!! 

 

 まずはノーマルの牛丼をばっくり行く!!ちゅるん?つるん?まるで麺でも食べているかの様に簡単に喉奥に消える。 

 

 ここに卵を溶かして追加すると、また簡単に飲み込める。 

 

 あっという間になくなる牛丼!早い!早すぎる!!! 

 

 次はチーズをトッピングして、チー牛を食べる!濃厚で伸びる感覚が美味い!いいじゃんチー牛!何が駄目なの!?チー牛!!コクとまろやかさが足され牛のミルクから作られているからか相性も無類である。 

 

 ポン酢!大根おろしとポン酢!酸味がこれほど美味しく感じる事も珍しい!すっぱい事が苦手な人だてt多いはずなのに、ポン酢はなんでこんなに美味しいのだろうか?また大根おろしがさっぱりとしてたまらない!甘めのお肉にがっつり絡んで飲み込む!! 

 

 青ネギもいいけど、辛みのタレがかかってる!。 

 

 辛みネギ!ネギのえぐみが消えて、これがいけるのなんの!? 

 

 ここで原点回帰、ネギだくに七味、紅ショウガをまんべんにチラシで、かっこむ!!! 

 

 んぐんぐんぐ!はぁ!あぐあぐあぐぐぐ!!ハァハァ!たはぁ!美味い!そして途中から温泉卵の濃厚な黄身を崩してからめれば、濃い黄身を味わいながら食える! 

 

 「かぁ!これまたうめぇ!これ絶対銀貨5枚の味じゃねぇよ!」 

 

 「だよなぁ!安い肉っていってもこんな深みなんか出るか?技術の味なのかわかんねぇけど、簡単じゃねぇよなこれ!」 

 

 「見た目は煮込んだ肉、米に乗っけてるだけなんだけどなぁ、レシピみて真似てもこの店の味に届かねぇ!」 

 

 「そうなんだよなぁ、そこが謎なんだよなぁ」 

 

 「嫌、他の奴の料理がまずい訳でもないんだ。美味い事は美味いんだよ!ぶっちぎりで飯自体は美味いんだけど、八百万と比べるとってな??」 

 

 「だよなぁ、どの店もかなりクオリティたけぇし、値段にも文句はねぇ、アステリオスの旦那の飯だって定期的に食いたくなる味なんだよな」 

 

 「でも八百万の飯は毎回楽しいし、感動?感激?なんかわかんないけどわくわくするし、美味さも飛びぬけて感じるんだよなぁ」 

 

 「初めての味って言えば、毎回八百万だもんな」 

  

 「確かに!毎回予想を超えた味でさぁ!毎回美味いんだもんよぉ!でもよぉたまには前の料理また作ってくんねぇかな?って思うよな?」 

 

 「思う!思う!これ一回じゃぜったいたりねぇだろ!!って料理何個かあるよな!」 

 

 「牛丼牛丼!これも簡単ならまたやってほしいぞ!早いし!美味いし!安いし最高だよ!」 

 

 「どう考えてもこんなに安く食っちゃ駄目な料理だよな!」 

 

 「つけもんと味噌汁がまたありがてぇ」 

 

 「おい!あっちに天かすかけてる奴いるぞ!俺も天かす食いてぇ!!」 

 

 騒がしい喧騒の中で、独自の食い方を発見しては突き進む冒険者達。 

 

 あー!また料理の復刻やってくれないかなぁ・・・・・・・・ラーメンも天丼もうなぎももっともっと食べたい。 

 

 新たなまた食べたい料理に牛丼が見事にランクインするのだった。

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